昭和３１年（１９５６年）１１月、南極へ向かう宗谷の甲板に樺太犬の元気な姿が見られた。昭和基地で第１次観測に活躍した１５匹の犬は、厳寒の極地に置去りにされて１年、犬は生きていたのである。生き残った、タロ、ジロの育ての親、北大の犬飼哲夫教授は、今日も樺太犬に変わらぬ愛情を捧げている。嬉しい知らせを聞いて集まった「南極の樺太犬を見守る会」の人々は、大変な喜び様である。第３次越冬を前に心温まる南極からの便りであった。

永井荷風氏は１９５９年４月３０日の朝、千葉県市川の自宅で人知れず血を吐いたまま７９歳の生涯を閉じた。世俗に背き、人間嫌いで通した荷風氏に相応しい孤独な最期であった。日記の最後の頁には「二十九日くもり」と記されている。名作「すみだ川」を始め、浅草を舞台に数々の優れた作品をうんだ荷風氏は、死にいたるまでこの土地に深い愛着の念をいだいていたといわれる。昭和２７年（１９５２年）には文化勲章を受章。その喜びを語る在りし日の荷風氏。温かい目と鋭い文明批評をもって、明治・大正・昭和の三代にかけて独特の文学を打ち立てた大文豪荷風。１９５９年５月２日はその最後を飾る葬儀の日だった。（週間話題）

相生の山の緑が波静かな瀬戸の海に没する所、ここ播磨造船所では朝から起重機がうなり、６０００人の人々が生産にいそしんでいる。今日は事業の発展と労働の安全を祈る年に一度のお祭の日。若い工員たちの手によってお神輿が船に移され、海神の霊を慰める海のお祭が繰り広げられた。しぶきをあげて名物のペイロン（ペーロン）競漕が一斉にスタート。各職場から選ばれた腕に覚えのある若者たちによって争われる、抜きつ抜かれつの勇壮なレースである。ゴールも間近、櫂を持つ手に一段と力が籠る。伝統を受け継いだ働く人々の楽しい一日だった。（週間話題）

１９５９年も冬の訪れとともに東京の空は煤煙のシーズンを迎えた。１ヵ月に１平方キロの広さに降る煤煙の量は約２０トンといわれ、大きな公害問題の一つ。東京都では苦情相談所を設けたり、ボイラーマンを集めて完全燃焼による煤煙防止の講習会を開いて、対策に忙しい季節となった。（週間話題）

１９５９年２月２０日。日本赤十字社の井上益太郎外事部長は、北朝鮮（朝鮮民主主義人民共和国）帰還と抑留漁船員の釈放の協力を国際赤十字に求めて、ジュネーブに向かった。２月８日の人民軍創設１２周年記念日を迎えた朝鮮民主主義人民共和国。見事に行進する人民軍の成長。３ヵ年計画を７５日で完成したという鉄道の開通式。レンガ造りの住宅が建ちならぶ農村。特に力を注がれるマユの増産など目覚ましい発展ぶり。忙しい収穫が終って、ブランコに揺られるのどかな北朝鮮からの便りである。（週間話題）

青森県八戸市の蕪島は今ウミネコの産卵期、卵を抱えたメスの傍で怖い目をしたオスが見張りをし、可愛いヒナがあちこちで誕生している。ところがこのウミネコは、海がシケるとヒナの餌を求めて田圃に襲来、田植の終った水田の苗を踏み倒して、ドジョウやタニシをあさるので、お百姓さんにとっては憎い大敵である。放っておいては一大事と、農林省の捕獲許可書を手に入れてウミネコ退治に勇み立ったが、海辺の青年団からは魚群のありかを教えてくれるウミネコの射殺にはきつい抗議。市からは大事な観光資源を荒らされては困ると、これまたきつい反対にあってお百姓さんもハタと当惑。結局、空砲で脅かすだけで処刑は当分おあずけになったが、心配なのは保護に当っている青年団員、１羽でも異常はないかと毎朝夜明け前から蕪島を見回っている。

先ごろ初の金属ウラン国産に成功した、東海村の原子燃料公社東海製錬所の開所式が、１９５９年３月２８日盛大に行なわれた。日産３０キロの設備能力を誇るこの製錬所が、日本の原子燃料のメッカとして、その機能を発揮する日も近いことであろう。

日照り続きのため減水した大阪城の外濠から、１トンもある不発弾がにょっきりと顔を出し市民の肝を冷やした。これは戦時中Ｂ２９から投下されたもので、自衛隊の手で恐る恐る引き揚げ作業が行なわれ、トラックに積み込んで大阪港に護送、ここで海上自衛隊にバトンタッチ。潮岬南方海上に運ばれ海中に投げ込まれることになった。一方、名古屋城のメスの金のシャチがこのほど大阪造幣局で完成、名古屋城へ輿入れの日を迎えた。時価２千４百万円、カンカン照りの太陽に５７４枚の金のウロコを輝かせて誇らしげに市内をパレードした。