一人一人が「個」で音楽を聴く現代。だが蓄音機の時代には、誰もが一緒に歌える音楽があった。小説家のいしいしんじ氏とギタリストの大友良英氏がスタジオに蓄音機、ポータブルプレーヤー、カセットテープレコーダーを持ち込み、再生機と音楽の聴かれ方の変遷をたどりながら、音楽と大衆の関係を考える。◆ふとしたきっかけで１９３０年代の蓄音機を手に入れたという、いしいさん。一曲ごとに針を替えながら、蓄音機と同世代のＳＰ盤を聴く。蓄音器にはスピーカーがない。機械自体が音を響かせる楽器であり、録音当時の空気の振動をそのまま伝えるタイムマシンだ。また、当時のみんなで蓄音機を囲んで聴くスタイルが、レコード制作にも影響していることがわかる。後半では大友さんがポータブルプレーヤーで、当時大好きだったという坂本九の「悲しき６０歳」を紹介するが、レコードの回転数を間違えるハプニングも。◆プロがつくった音楽を大衆が聴く時代が続いたが、将来は大衆誰もが音楽を奏でる時代になるのかもしれない。

様々な人の悩みが寄せられる命の電話。ＣＭ作曲家の虻谷健介も電話する一人だ。４８歳になり、新しい音楽に行き詰っていた。音楽を始めたのも母の影響だったし、仕事にしたのも学生時代の親友・上川に誘われたバンド活動がきっかけだった。元々「音楽がすべて」ではなく、音楽や音に囲まれた世界にも疲れていたのだ。母のアルツハイマーも進行し、未来に希望も感じられない。半年前に鉄道自殺で亡くなった上川のことを考え、自殺の誘惑にかられていた。しかし、今を忘れ、過去の世界に戻ってしまった母と暮らすうちに、不思議に虻谷本人が忘れていた子供の頃の記憶に出会い、自分自身の原点の音と音楽体験を再発見（リバイバル）し、やがて生きる希望を取り戻してゆく。◆作：青木豪、出演：田口トモロヲ、草村礼子、利重剛ほか。２０１０年ＡＢＵ賞受賞。平成２２年度文化庁芸術祭参加。初回放送２０１０年３月６日

一つのことに情熱を傾ける一人の新潟人を月曜から金曜の５日間で伝える番組。今回は三条市出身で、新潟県立新潟南高校の科学科教諭、高橋義之さんの２日目。彼の目指すものや、生徒に対する思い、そしてユーモラスな横顔を描く。◆高橋さんが教える新潟南高校の理数コースは、文部科学省からの指定を受け、科学者を育てる教育カリキュラムＳＳＨ（スーパー・サイエンス・ハイスクール）を組んでいる。そのカリキュラムの一環として出かけたアメリカ研修、授業で使ったペットボトルロケットを携えてＮＡＳＡを訪問するが、あるトラブルが発生する。◆何より生徒が目を輝かせて喜ぶ顔を見られるのが嬉しいと語る高橋さんは、１日１日を丁寧に生きて欲しいと生徒たちに伝えている。

ラジオ６０年の歴史の中で、パーソナリティ第１号といわれる人物の一人、三國一朗。当時の彼とラジオ業界を重ね合わせ、ラジオにとって、ラジオパーソナリティにとって大切なものは何かを考える。◆ビール会社の宣伝部に勤務していた三國氏は、民放ラジオの黎明期にひょんなことから深夜番組「イングリッシュアワー」に出演することになった。昼はサラリーマン、夜はラジオの生放送という彼の仕事ぶりを、当時の番組スタッフに聞く。また、洋楽やジャズに精通していた彼をリサイタルの司会に起用したペギー葉山さん、生ワイド番組で共演した毒蝮三太夫さんら関係者にも話を聞きながら、三國一朗という人物を通してパーソナリティに必要な資質を探る。彼が大切に保存していた膨大な資料や音源の中から、その一部も紹介する。さらに、ＦＭ　ＮＡＣＫ５の生ワイド番組「鬼玉」パーソナリティ、玉川美沙とバカボン鬼塚がラジオの大先輩の生き方を受け、未来のラジオへの意気込みとパーソナリティ論を語る。

「鹿児島の朝に彩を！」をキャッチフレーズとする平日朝の生ワイド番組。（２００９年４月放送開始）◆この週のテーマは、「カラフル、鹿児島！」。鹿児島にはどんな「色」があり、どんな「いろどり」が鹿児島を作っているのだろうか。鹿児島というと「黒」というイメージがあるが、南国鹿児島には様々な色があふれている。シラスを用いた路面電車の軌道敷緑化、垂水の名産「海の桜勘（カンパチ）」などのレポートを交えながら、ＪＲ九州新幹線全線開通を前にした鹿児島の良さを再確認する。パーソナリティ：岡田祐介、古山かおり。

２００９年、ロシアから日本人抑留者名簿７０万人分が公開された。シベリア抑留の記録は数多く残され、その多くはソ連（現ロシア）極東地域での悲惨な強制労働を綴ったものだが、実際にはモンゴルや中央アジア、東ヨーロッパにかけての広い範囲で抑留生活を強いられていた。京都市在住の元兵士佐藤さん（９０歳）もその一人だ。千島で終戦を迎えた佐藤さんは、アゾフ海に面するロシア南部の都市タガンログで、ロシア人と共に作業に従事したと証言する。これは当時ソ連が日本人捕虜を戦争で荒廃したソ連本土の復興のための労働力として酷使していたことを物語っている。また、佐藤さんは入院先の病院で３人の日本人が亡くなったと語り、これは国の調査でも確認されておらず、このような証言が新たな身元確認や遺骨収集につながる可能性もある。取材で得た新情報を元兵士らの証言で綴り、シベリア抑留問題の解決策を模索する。

２０１０年１月１７日、ライブで名古屋に滞在中に、ホテルで倒れているのを発見された浅川マキ（享年６７歳）。金沢の高校を卒業後、役場勤務を経て上京。寺山修司に見出され、アンダーグラウンドから逸脱することなく、ジャズ、ブルースを独自に解釈し、時代のアイコンとして活躍した。彼女の陰影をたどり、それが今の表現者に与えている影響を探る。◆浅川マキは故郷を捨てた。そして故郷も彼女を忘れている。マイクは北陸から東京へと彼女の足跡をたどる。アングラ、６０年代、そして現代へ。ストリートミュージシャンが立つ新宿は、かつて浅川が活動した町でもある。ブルースやジャズを歌い、煙草を吸ってサングラスをかけ、ピット・インの楽屋に佇んでいた。ワルツのリズムで踊るように歌った「かもめ」、そして「少年」。数々の証言やライブなどから、彼女のスタイルが時代を超えて今の音楽シーンに重なっていることが明らかになっていく。平成２２年度文化庁芸術祭参加作品

山形県西川町大井沢は、長い冬と短い夏という厳しい気候の山岳地域の村だ。真冬は４メートル以上の積雪があり、初夏の６月でもまだ雪は消えない。現在も１１４世帯、２９０人が暮らす。１００年前、その大井沢に暮らす志田荘次郎氏の家に女の子が生まれ、周子（ちかこ）と名付けられた。彼女は地元の学校を卒業し、東京都内の医師養成学校に入学、その後父親の要請により故郷の大井沢に戻り、無医村であったその村に初めて医院を開業する。この医療活動によって多くの村人の命が救われ、大井沢は健康で安心して暮らすことが出来る村になった。一生涯をその村での医療活動に捧げ、５１歳という若さで亡くなった志田周子さんの生涯を、女優のひとり語りで描くラジオドラマ。脚本：今田裕美子、大久保円、出演：今田裕美子。