戦後５度目を迎えたイギリスの総選挙は、有権者の出足よく各地の投票所には人の列が続き、マクミラン首相、８５歳のチャーチル元首相も姿を見せた。保守党か、労働党か、全国民の関心はこの一点に寄せられ、開票の結果を待つロンドン市民が、目抜きの広場を埋め尽くして見守るうちに、３６５対２５８で保守党は３回連続して圧倒的な勝利をおさめた。再び政権を握ったマクミラン首相は、近づく東西首脳会談を前に、国民の厚い信任を受けたのである。

めっきり増えた自家用車族で自動車教習所は満員の盛況である。理屈通りには動いてくれない車、それでもドライブの夢は消えない。床屋の望月さんが商売そっちのけで作り上げた小型乗用車は、エンジンの調子も上々、坊やのハンドルさばきもあざやかなもの。現代女性の条件だと女子大生の間で自動車クラブが生まれ、今日も汗にまみれて自動車と取り組んでいる。夜の更けるのも忘れてカスタム・カーの組立に熱中する学生さん、中古部品を集めた苦心の作もいよいよ完成だ。徹夜の苦労も実って学校ではみんなの人気を集めている。

１９５９年５月２９日午後２時過ぎ、長野県飯田市近郊上郷村の内山花火工場が突然大音響と共に爆発、死者７名重軽傷者１９４名という大惨事となった。花火工場の爆発事故は年毎に増え、ここ５年間だけでも既に３００件、死者は９０名にものぼっている。一瞬にして肉親を失った遺族は、ただ泣き崩れるばかりだ。爆風によって付近の民家は惨憺たる有様だ。爆風は現場から１００ｍ離れた浜井場小学校にも及び、飛び散った窓ガラスの破片で授業中の生徒が負傷。ひん曲った柱や壁が当時の物凄さを物語っている。なかでも校庭で体操中の６年生女子は、爆風で即死するというあまりにも痛ましい犠牲だった。民家の密集地帯に野放しにされている花火工場に対し、厳しい取締りが望まれている。

北から南から、新たな年の訪れに太宰府の梅もほころび始めた。兵庫県竜野の農家では手延べ素麺の最盛期。姫路の小林平八郎さんの作業場では国宝姫路城の復元の瓦が念入りに形どられている。皇居では御成婚近い皇太子さまを囲んで天皇御一家の楽しいお正月。天皇・皇后両陛下が睦まじく皇居内を散歩されれば、皇太子さまと美智子さんも思い出のアルバムを挟んで生涯の設計に楽しいひと時を過される。熊本県八代で、大羽子板が新春の装いを凝らす時、東京浅草の幼稚園では、可愛らしいお餅つき、軽井沢のスケート・リンクでは、若い人たちがカルタ取りや餅食い競争に興じている。さて１９５９年は亥の年。大阪の狩猟ずきが猟犬と猪を追えば、熊本県では、人家に飼われて犬と戯れる仔猪たち、果ては遙々上京してデパートの客寄せに一役買った。「鍋底景気」といわれた昨年の不況を乗り切って、生産界も今年は活気づいている。東電（東京電力）が千葉に建設中の東洋一の火力発電所も、すでに第３期の工事を終って、６月の完成へ急ピッチ。最も近代的な製鉄所として知られる富士製鉄の広畑工場では、従来の連続式冷間圧延機に加えて、最近１８０センチ幅の薄板を生産できる逆転式冷間圧延機を設置、日本一の薄板生産工場の名に恥じぬ威容を誇っている。こうして天皇も庶民も、町工場も大工場も、国中が新春の息吹に浸っている。明るく、逞しく、今年こそは豊かな年にしたいものである。

初春の訪れも間近い瀬戸内海の淡路島では、この島の自慢「人形浄瑠璃」一座が、いま正月興行を前に準備の真っ最中である。内海の明るい陽射しを浴びながら、村の社の境内で大振りの人形が演ずる、悲しい愛の物語。舞台は「太閤記十段目・尼崎の段」。島のおじいさんもおばあさんも、昔語りの人形芝居の音に誘われながら、新しい年を迎えるのである。

１９５９年４月２９日、天皇誕生日の皇居広庭に、朝から参加の人波がわれを先にと続いた。１９５９年は満５８歳になられた陛下を始め、お喜び続きのご一家が、初めてお揃いでお立台に立たれるという空前の皇居ブーム。この日の参加者は１１万を超え、中には感極まって土下座をしたり、卒倒する人まで出る始末だった。５月３日には皇太子ご夫妻が清宮さまと一緒に、学習院同窓会の園遊会に出席されたが、ここでも十重二十重に取り囲まれて、お付きの人がハラハラするほどの人気の的。日頃おっとり澄ました学習院族も、美智子さまの顔見たさに押すな押すなの賑わいであった。（週間話題）

１９５９年３月２３日、帰国した社会党の訪中使節団（団長・浅沼稲次郎書記長）は、早速新橋ステージでの報告会に臨んだ。ところが会場に押しかけた右翼の連中が大暴れ、果ては発煙筒を投げつけるという乱暴を働いた。衆議院予算委員会で浅沼稲次郎書記長は、日中問題で岸信介総理を追及、本会議では最後の切札不信任案を突きつけた。不信任案は否決され、国会を乗り切った岸総理は、東京都知事候補東竜太郎氏の応援に駆けつけた。政府攻撃の余勢をかって、社会党は今度こそ有田八郎氏を勝たせようと激しい選挙戦に入った。北海道でも保守革新の一騎打ちである。こうして自民、社会両党は地方選挙で国民の審判を仰ぐことになった。

日照り続きのため減水した大阪城の外濠から、１トンもある不発弾がにょっきりと顔を出し市民の肝を冷やした。これは戦時中Ｂ２９から投下されたもので、自衛隊の手で恐る恐る引き揚げ作業が行なわれ、トラックに積み込んで大阪港に護送、ここで海上自衛隊にバトンタッチ。潮岬南方海上に運ばれ海中に投げ込まれることになった。一方、名古屋城のメスの金のシャチがこのほど大阪造幣局で完成、名古屋城へ輿入れの日を迎えた。時価２千４百万円、カンカン照りの太陽に５７４枚の金のウロコを輝かせて誇らしげに市内をパレードした。