奈良の春日神社の鹿は年ごとに増えて、いまでは６００余頭がこれまた増えた観光客の相手をしている。グッと需要が増えた鹿センベイは公認のものでは間に合わず、道端の露店にはモグリのものも出回る有様。一方飼育係も好物の大根切りに大童だ。森の蔭では、１９５９年に入ってすでに１１０頭の仔鹿が誕生して、優しい母鹿の愛情のもとですくすくと育っている。こうして増えるばかりの鹿たちは、ついに柵を倒して社の外にあふれ出る始末。この辺で何とかしなくてはと、嬉しい悲鳴をあげている春日の鹿便りである。

１９５９年３月１日から、岩手県の盛岡と秋田県の陣場を結ぶ花輪線に、ディーゼル・カーがお目見得。これによって山深い奥羽山脈を横断するこのローカル線は、１時間２０分も短縮されることになり、沿線の人びとは歓迎に沸き立った。やがてディーゼル・カーの全国的な普及によって、煙を吐く蒸気機関車が姿を消す日も遠くはないことであろう。（週間話題）

４たび南極に向かう「宗谷」の甲板には、空輸作戦の花形ヘリコプターや、１１頭のカラフト犬が静かに出発を待っている。晴れの出港式に勢揃いした観測隊員、乗組員、合せて１３０名。立見辰雄観測隊長、明田末一郎船長の新しいコンビが力強い出発の挨拶を述べた。鳥居鉄也越冬隊長をはじめ、１９５９年の観測隊員は３分の２が初参加の新人、平均年齢３１歳という若々しい陣容である。１９５９年１０月３１日午前１０時５０分、「宗谷」は松田竹千代文部大臣らの見送りをうけて東京港日の出桟橋を出発。村山雅美越冬隊長の待つ昭和基地に向かって４１０００キロの旅に船出した。（週間話題）

国鉄ご自慢の大形コンテナ専用貨物列車特急「たから」号が、パレードも華やかに誕生した。このニューフェイスは、荷物をコンテナにそのまま積み込んで、戸口から戸口まで輸送出来るという荷造り不要のデラックス特急だ。１９５９年１１月５日、初荷を満載して処女列車が出発。このコンテナ列車の出現によって、今まで３０時間もかかった東京─大阪間が１０時間５５分に短縮され、来年には全国的にお目見得するそうだ。（週間話題）

東京の荒川区一帯にある町工場には、多くの中学生が働いているが、そのほとんどが、家の貧しい生活を助けるために、昼間働かねばならないのである。こんな生活をおくる中学生たちは、法律では存在しないはずの、義務教育の夜間中学校に通っているのである。一日の勤めを終って自分たちの生活を取り戻す学校は、楽しい憩いの場所なのである。東京で唯一の給食実施校だが、彼等のうちの何人かにとっては、安心して食べられるたった一度の食事かも知れない。授業中にさえも昼間の疲れで倒れる生徒もいるのである。しかし、学校にいる間はみんな明るく希望を持って励んでいる。先生はこんな生徒たちの心の灯として、いつも温かく守っているのだが、帰途につく生徒たちの行く手には、また明日の厳しい生活が待っているのだ。

国会乱入事件で指名手配されていた葉山岳夫前緑会委員長と清水丈夫全学連書記長は、東大構内で１３日間の籠城を続けて来た。一方、東大当局は学内の正常化をはかり、学生に粘り強い説得を行った。そのうちに学生の間にも、逮捕状の出ている２人を学外に退去させようとする声が高まって、やっと正常化の実を結びかけて来た。結局、２人は１９５９年１２月１０日の第９次統一行動に参加するため、校外へ出たところを逮捕され、東大問題は一応解決を見たのである。いずれにせよ、学生の自治は学生たち自身によって築き上げられるものでなくてはならない。

１９５９年８月１４日朝、時速６０キロのスピードで不意を襲った台風７号は、駿河湾から富士川河口に上陸、本土を横断して、山梨県など各地に鋭い爪跡を残した。韮崎市は釜無川の氾濫で一面泥の海と化し、北巨摩郡武川村は国道と橋の流失で全く孤立。渦巻く奔流をはさんで安否を気遣う両岸の人々の姿も哀れである。自衛隊も救出作業に出動、やがて食糧も空輸されて、小学校に収容された武川村の人々はほっと一息ついたが、川沿いの発電所も破壊され、あたり一面流れ込んだ土砂や流木に埋まって手の施しようもない。名物甲州ぶどうや桃も大きな打撃をうけ、死者、行方不明９０人、流失家屋３００戸にのぼる災害地に、速やかな救援の手が望まれている。

タイ国と日本との合作映画「山田長政、王者の剣」の現地ロケで、タイ国に渡る長谷川一夫さんら大映のロケ隊一行２２名は、１９５９年３月５日お揃いのユニホームで元気に羽田を出発した。（週間話題）