中央公論社社長宅が襲われた嶋中事件から２０日目の１９６１年２月２１日、警視庁はかねてからテロの背後人物と目されていた愛国党総裁赤尾敏を殺人教唆の疑いで逮捕した。事件のけじめも一応ついて小倉謙警視総監は辞意を表明。新総監には原文兵衛氏が就任することになった。ところが２４日、赤尾敏の拘置請求を受けた東京地裁の飯守重任裁判官は嶋中事件の原因は皇室侮辱にあり、テロを招いた（左翼の）集団暴力の規制を考えるべきだとの意見を発表、裁判官として異例のこの一方的な発言は大きな波紋を投げかけた。

全日本選手権に出場するおらが村の「豚の代表選手」が鎮守様に必勝を祈る。大会の開かれる群馬県高崎市に各県代表が到着、宿舎では牛乳でみがきをかけたり、つめを切ったりして最後の仕上げをする。３年に１度の豚の祭典は高松宮様の前でいずれおとらぬ毛並の良さを競う。豚と一緒にみる夢は故郷に錦を飾ることか。

１９６１年８月７日、チトフ少佐が操縦するソビエト連邦のボストーク２号は２５時間１８分に渡って地球を１７周、月への往復距離に匹敵する７０万キロを飛んで地上に生還した。この間、チトフ少佐は８時間の睡眠と３回の食事など貴重な宇宙生活を体験、空から各国にメッセージを送った。

千葉県佐原から茨城県竜ケ崎へ、季節労働のおばさんたちがバスでやってきた。人手不足の折から日当も２．３割方はずんで迎えられ、忙しい田植季節の始まりだ。茶所・狭山では好景気を反映してか、茶摘みの娘のなり手がさっぱりなくなってしまい能率の上がるハサミ刈りをしたり、臨時休校の子供たちに応援を頼んで急場をしのいでいる。人手不足で頭の痛い大人に比べ、子供たちには働いたお金を積み立てて卒業記念にあてようと、楽しいアルバイト・シーズンになったよう。

北海道の森町は復興も遅々として進まないまま冬を迎えようとしている。第２室戸台風の残骸も生々しい和歌山県御坊町、中学校の講堂には今でも３７世帯の被災者がカーテンで仕切りして、仮住いを続けている。バラックの住宅の工事は材料不足のままストップして、年内には間に合いそうにない。集中豪雨で廃虚と化した伊那谷の大鹿村、分校を失った北川地区の子ども達は１２キロも離れた本校で寄宿生活をおくっている。山崩れで５５人の死者を出した大河原では、まだ１０人の遺体が発見されていない。田畑を流され実りの秋を迎えることもできなかった農民たちは、男８百円、女５百円の日雇いの復旧工事にでて生活を立てなければならない。保育所で落葉をたきながら、働きにでた親の帰りを待つ子ども達。伊那谷にやがて冬が迫ろうとしている。

クリスマス・イブを迎えてネオンの町は史上最高のボーナスにうかれた人出で賑わっている。寄席の高座に現われたのはドイツ生まれの日本人と自称するフォンタクトさん、ギターにあわせて大熱演「お粗末一席」の一幕。この所、ナイトクラブにステージに稼ぎまくる外人タレントの数は増える一方、外国のものをありがたがる日本人は世界各地から様々のアーチストが押しかけて張り切っている。高い値段もなんのそのその外国ムードにひたれるとあつてナイトクラブはどこも盛況、道化師の珍芸、手品、踊りなど、斯く斯くの店がきそっての指名でうけにいっているのはは青い目のタレントたち、貿易の自由化に先駆ける芸能人の自由化はいまやさかん、東京の夜は外人タレントの花ざかりだ。

航空自衛隊松島基地では高校生を招いて航空教室を開いた。救命胴着をつけて大空へ、未来のパイロットたちは１時間の飛行旅行を満喫した。一方神奈川県武山の海上自衛隊にやってきた高校生たちはカッターや水泳の訓練を受けた。これは来春卒業する終戦っ子たちを相手に自衛隊のＰＲ作戦。

ミサイル試射場の工事請負を決める村議会を前に緊迫する新島。警視庁では３百名の機動隊を派遣、全学連宿舎など手入れして仕込杖を押収した。反対派は村議会に対して工事中止の請願を続けるが、ついに１９６１年３月１３日、ミサイル議案を９対３で可決した。と同時に防衛庁は測量器を持ち込んだが反対派は測量阻止の行動にうつり実力闘争の決意。どちらも引けぬ争いに１７日、今度は右翼オルグ団が衝突、双方２８人の負傷者を出す最大の乱闘となった。もはや暴力だけが残ってしまった新島の事態収拾は急を要している。