台風シーズンを迎えて１９６１年８月２４日東京の江東地区では総合防災訓練が行われた。ゼロメートル地帯の人たちは訓練とはいえ真剣。もしも伊勢湾台風級の高潮が東京を襲ったら、亀戸駅前はガードすれすれまで水没、浅草の仲見世はお店のひさしまで、銀座通りは交通整理のお巡りさんの首まで水が上がって、大東京の大半は泥の海となってしまう。今も尚、水面下の恐怖にさらされている江東地区デルタ地帯では台風の来ぬ間に補修工事が急がれている。工事は去年から始まって１０年計画だが、自然の猛威は工事の完成まで待ってくれない。台風シーズンを前に心細い大東京の無防備地帯。

北海道の森町は復興も遅々として進まないまま冬を迎えようとしている。第２室戸台風の残骸も生々しい和歌山県御坊町、中学校の講堂には今でも３７世帯の被災者がカーテンで仕切りして、仮住いを続けている。バラックの住宅の工事は材料不足のままストップして、年内には間に合いそうにない。集中豪雨で廃虚と化した伊那谷の大鹿村、分校を失った北川地区の子ども達は１２キロも離れた本校で寄宿生活をおくっている。山崩れで５５人の死者を出した大河原では、まだ１０人の遺体が発見されていない。田畑を流され実りの秋を迎えることもできなかった農民たちは、男８百円、女５百円の日雇いの復旧工事にでて生活を立てなければならない。保育所で落葉をたきながら、働きにでた親の帰りを待つ子ども達。伊那谷にやがて冬が迫ろうとしている。

東京新宿の生活館では最低１２００円で結婚式が挙げられるというので、日取りの抽選会に婚約者たちがどっと押し寄せた。またたく間に日程表が埋まって２ヵ月先まで予約済み。当選者は手付金６００円を払って、新生活のスタートはまず結婚式の簡素化から始まる。一方、全国の婦人代表が集まって開かれた家庭経済の討論会、新生活は婦人の手で、今年もガマ口をしっかり締めて行こうと申し合わせた。

天皇の長女東久邇成子さんは１９６１年７月２３日未明、腸ゆ着症のため宮内庁病院で死去された。徹夜の看病もむなしかった悲しみの天皇・皇后両陛下、遺体は最後まで治療にあたった人々の見送る中病院をでて行く。昨年島津貴子さんの結婚式においでになったありし日の成子さん、戦後は一庶民の主婦として３男２女の母として歩んだ３５年の生涯だった。

嶋中事件に追い打ちをかけるように、大阪で中央公論社の解散を叫ぶ右翼の大会が開かれたり、東京では中央公論社を告訴せよと右翼の一隊が首相官邸に押しかけるなど、このところ右翼は世論の批判に鳴りをひそめるどころか、逆攻勢に出て来たようである。２人のテロ少年を出した大日本愛国党本部には、はるばる九州から上京した１６才の少女が入党し、公然とテロを口にしている。赤尾敏総裁は党員を引き連れ千葉の道場で鍛えているが、この党が右翼テロの特攻基地にならぬよう厳しい監視が必要だ。折も折、埼玉県では日本教職員組合の小林武委員長を狙っていた１７歳の少年が逮捕された。狙われた小林委員長には私服警官が付きっきりで、行く先々護衛に当たる始末。太田薫日本労働組合総評議会議長をはじめ労働組合幹部、文化人にまでテロの黒い影が付きまとう異常な事態になり、言論の府である国会の出入りも厳重を極め議員の安全まで脅かされるに至った。しかし、国民の一人一人が、今こそ毅然たる態度でテロを追放する心構えをはっきりさせなければならない時である。

強豪ソ連チームを迎えて東京で開かれた日ソ体操対抗競技大会、ソ連女子チームは世界一の看板通りの実力を発揮して圧倒的に優勝。男子対抗は接戦の末、優勝は最後の鉄棒に持ち越されたが、スケールにまさるソ連チームが１点差で優勝、国際競技にふさわしい熱戦の幕を閉じた。

１９６１年４月２８日の上野や新宿駅は行楽客で足の踏み場もない。運賃値上げも何のその、レジャーブームで客は行楽地へ向かう。２９日の天皇誕生日は１０万人が参賀に訪れ、兵庫県六甲山は３万５千人ものハイカーで山は超満員。山開きを迎えた福島県吾妻山には３千人もの客、５月１日の第１３回メーデーには東京の中央会場に６０万もの人の波。

プロ野球パ・リーグ。われに勝算ありと東映・水原茂監督、早々と日本シリーズのポスターも切符も用意した。大川博社長も必勝の矢を手にネット裏に陣取る。満員の駒沢球場は、リーグ優勝をかけて東映・南海の決戦。日本シリーズの相手や如何にと巨人勢の見守るうちに、鶴岡一人監督ひきいる南海はそつのない攻撃で東映を降し、通算８度目の優勝を飾った。西銀座シリーズの夢破れて、日本選手権は巨人・南海のリバイバル・シリーズとなった。