１６年目の８月６日を迎えた原爆第一号地の広島、今年も新たに１３９柱の犠牲者が過去帳に加えられ限りない原爆の被害を胸に刻み込んだ。全国民あげて平和への誓いをこめるこの日、しかし１６年の歳月は全国民の声ともいうべき原水爆禁止運動に分裂、危機を持ち込んだ。新しい核兵器反対運動に立った松下正寿氏は「アメリカを戦争勢力と決めつける原水協は政治的偏向であって一緒にやって行けない」と攻撃、原水協の安井郁理事長は「政治批判を辞めることは運動を骨抜きにするもの」と反論する。こうした共通の目的に向かって結ばれる運動が二つに分裂していいものかどうか、「過ちは繰り返しません」と刻まれた文字の意味をもう一度静かに考え直すときが来たのではないだろうか。

アメリカ・ブラジル・アルゼンチン等の世界強豪選手を迎えて、日本選手権水上競技大会は１９６１年７月２８日から東京の神宮プールで行われた。男子２００ｍ平泳ぎ決勝では予選で２分３３秒６の世界新記録をマークしたチェット・ジャストレムスキーが断然強く、２分３４秒フラットの世界新記録でゴールイン、男子２００ｍ背泳決勝ではアメリカのストックが日本選手を７メートルもはなして２分１４秒フラットという超人的な世界新記録を樹立。女子２００ｍ背泳決勝は日本の田中聡子さんが２分３３秒２の世界新記録で優勝。山中毅とロイ・サアレーとの対決で好記録が期待された男子１５００ｍ自由形は若干１６才のサアレーが山中に５メートルの差をつけてゴール・イン。外国勢に圧倒された日本水上選手権大会だった。

昭和３６年度も６人の文化勲章受賞者と５人の文化功労者が決まった。文化勲章を受ける日本画の堂本印象さん、仏画にまた日本の抽象化に意欲的な活動を続けている。陶芸家の富本憲吉さんは独学で古九谷の味を現代化し気品高い作風で知られ、色絵の焼付には他にならぶ人なき優れた技術をもっている。功労者の異色は柔道の三船久蔵十段、世界の柔道へと６０年の精進が高く評価された。８２才の石原忍博士はトラコーマの研究や色盲検査表で世界的に有名な医者、現在も日課の検査表作りに余念がない。博士の新しい文字の研究は眼科医の経歴を生かした国語改良のライフワーク。現在の日本語では世界に遅れを取るばかりと意気盛んでこの道一筋に生涯の努力を傾け、今なお厳しい学問の道に励んでいる。

東南アジア４カ国訪問の旅に出た池田勇人首相は１９６１年１１月１７日最初の訪問国パキスタンに到着した。盛んな歓迎に気をよくした首相はパキスタン語で挨拶して満場の拍手を受けた。「アジアの繁栄なくして日本の繁栄はない、日本はできるかぎりの協力を惜しまない」池田首相の経済外交。アユブ・カーン大統領とはすっかり意気投合した模様であった。

１９６１年５月１日モスクワの赤い広場には人類初の宇宙人ガガーリン少佐がフルシチョフ首相と肩を並べ、今年のメーデーは人間衛星成功の祝賀一色に塗りつぶされた。米国でも５月５日、シェパード中佐がマーキュリー・レッドストーン号に乗り１５分間の宇宙弾道飛行に成功、こうして世界はいよいよ本格的な宇宙時代を迎えた。

空にのびる団地の郵便屋さんは、階段を昇ったり降りたり大変な苦労だ。一日の昇り降りを合わせると富士山に昇るのと同じぐらい歩かなければならない。こんな苦労を無くそうと１階にポストを設備したところもできたが、全ての団地がこんなふうになれば郵便屋さんの苦労も、もっとなくなることだろう。

伊勢湾台風級の猛威を持って本土に接近した台風１８号（第２室戸台風）は半径３百キロという巨大な暴風圏を描きながら本土を縦断した。１５日早朝から九州南部は暴風雨圏に包まれ各地に豪雨禍が続出した。あけて１６日、台風は四国に接近すると共に日本全土に警報や注意報が発令。東京地方も高潮に備えて早くも警戒体制に入った。午後１時台風は最大風速５０メートルの猛威を振るって近畿地方に上陸、阪神地区に来襲、大阪市は４メートルの高潮に洗われ臨海地区や都心のビル街は泥の海と、およそ１１万戸に浸水した。京都では重要文化財指定寺院の建仁寺などに傷跡。台風の進路と共に本土縦断の最悪事態は避けられたものの、全国的な被害は死者行方不明１８６名、被災者総数６５万、大阪の地盤沈下の為招いた被害は工場地下水のくみ上げに原因、そこにも人災があることを忘れてはいけない。

春とはいえ雪におおわれた青森県の八甲田山では自衛隊の訓練が行われている。その昔旧陸軍青森連隊の一部隊が吹雪のため全滅した難所も装備と天候に恵まれて進軍も快調。長野市の善光寺はお彼岸の中日１０万石の大名行列をくり出し御開帳の前景気あおっている。お彼岸とあれば犬猫の仏を供養、東京の多摩霊園は奇特な人間達でにぎわった。また、慶応中等部の３３名の生徒は１０日間の米国旅行に出かけることになり、旅費は１人ざっと４０万円、すねをかじられた両親に見送られて１９６１年３月２３日、羽田を出発した。