戦後５度目を迎えたイギリスの総選挙は、有権者の出足よく各地の投票所には人の列が続き、マクミラン首相、８５歳のチャーチル元首相も姿を見せた。保守党か、労働党か、全国民の関心はこの一点に寄せられ、開票の結果を待つロンドン市民が、目抜きの広場を埋め尽くして見守るうちに、３６５対２５８で保守党は３回連続して圧倒的な勝利をおさめた。再び政権を握ったマクミラン首相は、近づく東西首脳会談を前に、国民の厚い信任を受けたのである。

奈良の春日神社の鹿は年ごとに増えて、いまでは６００余頭がこれまた増えた観光客の相手をしている。グッと需要が増えた鹿センベイは公認のものでは間に合わず、道端の露店にはモグリのものも出回る有様。一方飼育係も好物の大根切りに大童だ。森の蔭では、１９５９年に入ってすでに１１０頭の仔鹿が誕生して、優しい母鹿の愛情のもとですくすくと育っている。こうして増えるばかりの鹿たちは、ついに柵を倒して社の外にあふれ出る始末。この辺で何とかしなくてはと、嬉しい悲鳴をあげている春日の鹿便りである。

１９５９年７月１５日、熊野灘に洗われる紀伊半島を東西に結ぶ、三木里─新鹿間が開通。喜びに沸く地元の人々に迎えられて、東京からの祝賀列車「那智」号が熊野市駅に滑り込んだ。大正９年（１９２０年）の着工以来３９年ぶりに完成した紀勢本線の全通式には、十河信二国鉄総裁も出席。美しい娘さんから花束を贈られたり、お国自慢のカイ踊りなど盛大な催しに我が意を得たりと満足の様子だった。しかしこうした文明開化の陰に、バトンを汽車に渡して去って行くバスの姿も印象的である。一方では、沿線に「温泉つき土地売ります」の立札が目に付き、温泉客や観光客の誘致にボーリングやケーブル工事があちこちに見られるのも、開け行く土地らしい風景だ。とりわけ嬉しそうなのは、今日から汽車が走る二木島、賀田のお年寄りたち。昨日までは隣の町へも一日がかりで行った陸の孤島だったが、ようやく父祖三代の念願がかなっのだ。熊野路はいま新しい時代の夜明けである。

１９５９年５月２９日、在日朝鮮人は日本赤十字社本社、外務省に押しかけ、北朝鮮（朝鮮民主主義人民共和国）帰還交渉早期妥結の気勢を上げた。日赤の島津忠承社長は政府、自民党首脳と会談。赤十字国際委員会の仲介をめぐって、指導か監察かで難航するジュネーブ交渉に、政治的決断を求めた。しかし、大詰に来た北朝鮮帰還問題は、これを力で阻止しようとする韓国側の出方とともに、まだまだ問題は残されそうである。

わが国造船技術の粋を集めてこのほど完成した、世界最大のマンモスタンカー「ユニバース・アポロ号」は、海を圧するその巨体を徳山港に見せた。全長２９０ｍ、１０４５００重量トンのデラックス・タンカーは、１９５９年２月１５日遠く中東への処女航海に旅立った。

ハワイのキラウエア火山は、このほど９１年ぶりに大噴火を始めた。新しい火口から吹き出すおびただしい火山弾と噴煙は３５０ｍの高さに達している。噴火はいっこうに衰える様子も無く山腹に溶岩を押し出し、大自然の物凄い力をまざまざと見せている。しかし、今度の噴火は州昇格を祝うハワイの人たちに、大自然が贈った豪勢な祝賀花火にもたとえられて見物の人々を喜ばせている。

１９５９年は、前年より１ヵ月半も早い８月１５日から、高校生の就職試験が始まった。最後の夏休みも棒にふって、暑さも忘れて答案用紙と取り組む受験高校生、年毎に早くなって来た就職試験によって、一流会社への道はますますせばめられて来たようだ。お母さんやお父さんが、心配そうに試験場を覗き込んでいた。放送局のアナウンサー・テストには２千人もの志望者が集まったが、採用はわずか５人という狭き門だ。

政府は１９５９年２月１３日、北朝鮮（朝鮮民主主義人民共和国）帰還の方針を了解したが、韓国側は抑留日本人漁船員は帰さないなどと強硬な報復手段を通告、西日本の漁民たちは深刻な表情でこの非常事態の成り行きを見守っている。同じ１３日、衆議院予算委員会では社会党が、インドネシア船舶賠償に汚職の疑いありと岸信介内閣を追及。激しい追及に各大臣の答弁が食い違い、閣内不統一の醜態を演じ、何か隠しきれないような印象を与えた。岸首相も「以後は改心します」と頭を下げる有様。外には北朝鮮帰還問題、内には賠償汚職の疑い、岸さんこの頃ユウウツである。