１９５８年５月１日の衆議院選挙の公示とともに、立候補届出は定員の２倍を突破し、各地で激戦が伝えられている。応援演説に引っ張りだこの岸信介首相が５月２日まず大阪に乗り込めば、同じ日、鈴木茂三郎委員長は福岡に乗り込み、保守・革新の対決は激しくなる一方である。さて、ある候補者はお祭りに顔を出したかと思うと、今度はお葬式へと、ご機嫌をうかがいに飛び回って票集めをしている。田舎道では、自民党と社会党の候補者の車が鉢合せをして、互いに追いつ追われつ。１票を争って選挙戦はいまや攻防たけなわである。

１９５８年９月７日、西武線下り電車が埼玉県ジョンソン基地を通過中、乗客の武蔵野音楽大学の学生が米兵の発砲によって即死するという事件が起きた。１０日、容疑者の空軍３等兵（１９歳）の立ち合いを求めて、日米合同の実地検証が行なわれ、発砲は公務外の行為とされ日本の裁判を受けることになった。頼りにした一人息子を失ったお母さんを迎えて母校で音楽葬が行なわれたが、お母さんの希望を一瞬にして奪い去った米兵の心ない仕業に対し、厳正な裁判が望まれている。

北アルプスの剣岳（剱岳）を目指して、雪渓を登っていく法政大学山岳部の一行２４人。ザイルワークも慎重に岩場に挑み、吹き捲る風と闘いながら山頂を目指すクライマーたち。高度の技術を要するチムニー（岸壁に縦に走っている、身体が入る程度の割れ目）も征服し、努力とチームワークで極めた山頂からの眺めはまたひとしお。夏山は若人にとって忘れることのできない醍醐味である。

フィリピンで戦没した元日本軍将兵の遺骨２５６０柱を乗せて、「銀河丸」は１９５８年３月１１日、東京港晴海桟橋に帰って来た。１３年ぶりに懐かしい故国の土を踏むのである。遺族たちは肉親の霊を迎え涙を新たにした。続いて九段会館で追悼式がしめやかに行われ、翌１２日に遺骨は肉親の手に引き取られて行った。しかし、各地から持ち帰られた遺骨のうち、およそ８万体が引揚援護局の英霊室で、今もなお引き取り手が無く眠っている。

名人と言われた三遊亭円朝の墓のある東京谷中の全生庵。ここでは毎年お盆になると、本堂の壁一面に円朝が集めた幽霊の掛軸を並べて、その霊を弔う慣わしである。その中には円山応挙が、病気の奥さんをモデルにしたという幽霊の絵もある。心霊科学を研究している板谷樹教授は、実物の幽霊を撮ったという写真を集めている。幽霊に足の無いのは東も西も同じである。われわれにお馴染みなのは納涼大会のお化けである。このお化けはアルバイトの学生に操られている。あるキャバレーでは幽霊を客寄せに使っている。怪談ばなしの師匠の家では「四谷怪談」のお稽古が行われている。夏の夜に拾った街の話題である。

季節風に荒れ狂う日本海沿岸に、しばしば流れ着く浮遊機雷に、海上保安庁の係官は日夜監視に追われている。海上では荒波に揉まれながら巡視船が活躍している。１９５８年１月２５日、樺太（サハリン）からの帰国者を乗せた「白山丸」が沖合に姿を見せた。無事で帰国者たちに故国の土を踏ませるのも大事な役目の一つである。こうして地味な仕事に打ち込みながら、海上保安庁の人たちは海の安全を期して、休む間もなく荒海に挑んでいるのである。

春季闘争の第３次統一行動日を迎えた１９５８年３月２０日。東京中央郵便局の労組は職場大会を決行、労組員と警官が小ぜり合いを演じ、検挙者まで出した。東京都の教員組合は勤務評定反対で非常事態を宣言、教育庁に直談判に押しかけたが、交渉はもの別れになった。また賃上げでもめる私鉄争議に、中労委（中央労働委員会）では２１日斡旋案を提示、その結果、労使双方が歩み寄り、妥結した組合もあったが、大部分は２３日、２４時間ストに突入した。この私鉄争議の事態収拾は、次の実力行使まで持ち越されることになったが、いささか年中行事の感になった春季闘争、果たしてその成果があげられるかどうか注目される。

夜明けと共に、凍りつくような東京湾では、今日も忙しい海苔の採取が始まっている。１９５８年は海苔の当り年で、一冬の稼ぎ高は、一戸当りおよそ５０万円という嬉しい豊作景気である。しかし、この海苔場も、大都会の拡張の犠牲となって、埋め立てられて行くのにたまりかねた千葉県長浦の漁民たちは、４００艘の船を連ねて海上デモを行った。憎い干拓工事の役人に仕立てた藁人形をめがけて水鉄砲の集中攻撃、とんだ源平合戦の一日であった。