鳥海山を臨む実り豊かな庄内平野には、日本一の大地主といわれた本間さまが終戦まで君臨していた。しかし、農地改革で約２千町歩（約１９８３ヘクタール）の小作地を失ったため、かつて２万石（３千トン）の小作米を納めた倉庫は今は昔の姿もなく、本間家三代目の当主光丘の神社が、昔の名残を留めている。本間家に代々伝わる大福帳は貴重な研究資料として利用され、旧本邸は公民館に、豪華な旧別邸は美術館（本間美術館）となりかわっている。農地改革以後、一度傾いた本間家は商人に生まれ変わり、今では肥料や農薬で年間数億円も売り上げるほかに、タクシー会社やら、製材所やら、数多くの企業経営に乗り出している。お盆には、本間家の昔の盃をおしいただく農民の姿も見られる。本間一族は打ち揃って先祖代々のお墓に参り、お家安泰を祈った。豊年満作を祝う盆踊りには、本間さまも人々に混じって踊る。戦後１３年、商人として復活した旧大地主さまの姿である。

１１月１５日は七五三。１９５８年１１月１５日の明治神宮はさながら晴着のコンクール、お父さんお母さんたちが頭を絞ったケッ作ばかり。花ヨメ花ムコ、大原女スタイル、初陣の若武者。しかし、たった１日だけの晴着に金をかけるのも無駄な話と、東京渋谷区のある幼稚園では、紙で作った衣装を着飾り、可愛いファッション・ショーを開いた。

大蔵省の印刷工場で、１９５８年３月９日発売の「関門国道トンネル記念切手」の印刷が急がれているが、郵政省では切手ブームに乗って、さらに１９５８年も１０何種類かの新しい切手を発行しようと図案を練っている。切手は郵便に貼られるだけでなく、集められたり、売買されたりしている。時価百万円と言われる切手など、珍しい切手を集めている三井高陽さんや、切手三昧に生きる大川如水さん、二枚の屏風に切手を貼り詰めて、美しい地図を描いた宮城県白石市の紺野さんなど、切手収集家として有名である。一方、切手ブローカーはブームのおかげで商売繁盛。デパートの切手売り場も子どもたちでゴッタがえしている。町の切手交換会も大入満員、切手の入札でうの目たかの目である。切手ブームは益々高まって行きそうだ。

北海道苫小牧の王子製紙の争議は、労働組合を真っ二つに分裂させ、厳しい対立の中で無期限ストを既に３ヵ月以上も続けている。東京では、共同製本のストライキに、会社側は暴力団を雇入れて工場に入れるという戦前を思わせるような事態が起きている。昭和の初め、暗黒時代のメーデーを写したフィルムには、参加者を片っ端から身体検査をしたり、騎馬に乗って弾圧する警官の姿が記録されている。そして、いままた姿を現わした警官職務法（警察官職務執行法）改正案は、国民の間に再び不安の波を掻立てようとしている。そのため、１９５８年１０月１４日の国会は、社会党と自民党が激突して大混乱。行き詰まった国会審議は、議長斡旋でひとまず軌道に乗ったが、１７日開かれた本会議に社会党が提出した撤回要求決議案は、少数で否決となった。この折、傍聴席から改正案即時実施のビラを撒いて暴れる右翼も飛び出し、国会の内外に一部の右翼の動きが目立つ時勢となった。こうした時期に、岸信介首相が外国人記者に語った内容が内外に大きな波紋を巻き起こした。折から北海道では、自衛隊始まって以来の大演習が行われ、戦争を放棄した憲法９条の改廃が、日本の運命を左右する天目山ともいうべきであろう。自衛隊のジェット基地となる茨城県小川町の百里ヶ原では、基地賛成派が、基地反対派の先頭に立つ山西きよ町長のリコール運動を進めている。苦境に立って、説得に駆けめぐっている山西さんの表情は、そのまま、岐路に立つ今日の日本の表情につながっているのである。

１９５８年６月３日、大映京都撮影所に千代の山、栃錦、若乃花の三横綱が訪れ、映画「炎上」で坊さんになる市川雷蔵の断髪式に立ち合った。銀幕のスターもしばし神妙な面もちであった。

千葉市の郊外にある大巌寺は、川鵜が群生しているので有名である。口移しでエサをやる川鵜の親と子、空き巣を狙って卵を失敬するカラス、ヨチヨチと危ない足どりで成長してゆく白サギの雛など、これらの鳥たちは、大自然の中でそれぞれの生きる道を見出して巣立つのである。

１９５８年９月２４日、奈良で道徳講習会が開かれたが、激しい学生たちのデモを受けて、校長先生たちはカン詰めの自給生活である。しかし、講習と生活は別、染み付いた習性がボロを出し、４日位では直りそうもない。救援食糧もデモ隊に絶たれ、この騒ぎで１９人の学生の検束者を出した。学生たちは釈放を要求して、警察署に坐り込んで頑張る。一方、東京でも９月２５日、文部省前で学生たちが気勢をあげたが、はたしてこの学生たちの行動力を、強腰の文部省はどこまで押え切れるだろうか。

フランスのムジェーヴで開かれた国際スキー大会の滑降競技の全コースを、ヘリコプターに乗ってカメラが追跡した。高さ１８７１ｍの出発点から、猛烈なスピードで飛ばしてオーストリアのシュタイグラー選手が優勝した。