“お年寄りの日”の１９５８年９月１５日、養老院には寿司屋さんや芸者さんが訪れ、心のこもったサービスで老人たちを慰めた。空の東京見物に招待された老人たちは、初めて乗った飛行機で大喜びである。東京都の多摩養老院では目出度い結婚式。７３歳の花婿さんと６６歳の花嫁さんが、仲間の老人たちに祝福されて新しい人生の門出を迎えた。

１６０数人を乗せたまま消息を絶った「南海丸」の船体を、１９５８年２月２８日漁船が発見した。漂う「南海丸」のブイに続いて死体が収容された。沈没現場に駆けつけた調査団や遺族たちは、花束を捧げてただ涙にむせぶばかりである。遺体は引き揚げられて小松島桟橋に運ばれた。遺品に茫然と見入る遺族の姿も哀れである。これまでに約半数の遺体が収容されたが、残された多数の遺体の捜索が今日も懸命に続けられている。

過去８世紀にわたってアラブ民族が持ち続けた統一国家への夢が実現された。１９５８年２月１日、エジプトのナセル、シリアのクワトリ両大統領がカイロの調印式場に到着。２８００万のエジプト・シリア両国民を一つに結ぶ、アラブ連合共和国の合邦宣言が正式に調印された。

フィリピンに派遣された元日本軍将兵の遺骨収集団一行は、１９５８年２月６日、レイテ湾上で慰霊祭を行い、海底深く眠る１万人余の戦没者の冥福を祈った。７日ミンタル付近に向かった一行は、元日本軍の塹壕の中から多くの遺骨を見出した。こうしてフィリピンの島々に遺骨収集の旅が続けられているのである。

最新鋭の兵器ミサイルも、日本ではまずオモチャの生産から。東京のあるオモチャ工場ではミサイル・トラックの量産に入り、新潟市の銅鉄業者は、米軍機の補助タンクを改造してミサイルボートを作っている。遅ればせながら本物のミサイルと取り組む防衛庁技術研究所。試射場に伊豆の新島を予定したが、早くも反対する調査団が乗り込み、１９５８年２月５日、ミサイル基地設置反対の新島村民大会が開かれた。ミサイル軍備競争の波は、太平洋の小島にも打ち寄せ、将来に不安を投げかけているのである。

第４回原水爆禁止世界大会で、核兵器の持込み反対が、満場一致で決議されたそのさ中の１９５８年８月１７日、スイスから誘導弾エリコンを乗せた「有馬丸」が横浜港に入港した。荷揚げ反対派のランチに取り囲まれて立ち往生した「有馬丸」は、１０数隻の警備船に守られてようやく上陸用舟艇やはしけに荷揚げを始め、海上自衛隊岸壁に向かう。こうしてエリコンは入港１週間目に、やっと日本の土を踏むことが出来たが、ここにも正門前にピケ隊が押しかけ、徹夜の持久戦となった。しかし、２５日こっそりと裏門から東京技術研究所へ向かったが、ここでもデモ隊に押しかけられる始末である。こうして、やっとの思いで納まる所に納まることが出来たが、３億６千万円もかかったというこの買物、果して何の役に立つのであろう。

プロ野球セ・リーグ。１９５８年９月２１日、後楽園球場で巨人対阪神の最終戦が行われた。６回裏、巨人は阪神・小山正明投手のボークで１点を先取、一方、阪神は巨人のエース藤田元司投手と長嶋茂雄選手の好守備にはばまれ、９回表最後の攻撃で１死満塁のチャンスをつかみながら、遂に無得点に押さえられてしまった。こうして１対０で阪神を降した巨人は、優勝まであと７勝とこぎつけた。

かつての激戦地フィリピンの島々に、遺骨収集の旅を続けている「銀河丸」派遣団一行は、ミンダナオ島のザンボアンガで、野戦病院あとの地下壕を訪ね、３週間にわたる激戦の末自決した元日本軍将兵の霊を弔った。その頃、ビルマで戦死した筈の元陸軍上等兵金子喜作さんが、１５年ぶりに生まれ故郷の新潟県能生町に帰って来た。大勢の見知らぬ出迎え人に付き添われて、すっかり面食らい、浦島太郎のように茫然と我が家の敷居をまたいだ。自分の位牌を前に、金子さんはまだ１５年の悪夢が覚めやらぬ面持である。