１９５８年３月２日東京のある道場に、南朝の正統を唱える熊沢天皇（熊沢寛道）が座を構え、クサリガマ（鎖鎌）など古い武芸の「御前試合」が行われた。次いで『天皇』みずから立ち合い、卜伝流ナベブタ（鍋蓋）の極意を演じれば、打ち込む木太刀も難なく押さえられてしまう。“達人”熊沢天皇のよき一日であった。（週間話題）

新春の山々に建設の槌音を響かせて、日本一長い北陸トンネルの工事が急がれている。国鉄５ヵ年計画の一環として、北陸線の輸送力とスピードアップを目指し、敦賀・今庄間の山腹を貫く１３キロ８５０メートルの大工事である。一方、東北線では複線化の基礎工事が急がれている。御母衣ダム建設工事が進められている岐阜県白川村では、１００トンの火薬を使用する爆破工事が行われ、一瞬にして山の一角が姿を消してゆく。輝かしい国土建設への門出である。

このほどわが国で初めて視覚障害をもつ音楽家のリサイタルが東京で開かれることになった。声楽、ピアノ、バイオリンの６名の若い学生のグループである。点字のプログラム制作も楽しく、目が不自由でも音楽家として身を立てることが出来るはずだと、お互いに励まし合い、いたわり合って努力した苦労は、１９５８年１１月３日の晴れの舞台に、見事に実を結んだのである。

校長先生の管理職手当法案は委員会で一度も審議を行なわず、１９５８年７月３日、議長職権で参議院本会議に持ちこまれた。何回となく繰り返される動議に、しまいには何の動議やら訳が分らなくなるほどだ。とうとう４日の明け方までかかって法案はやっと成立した。これについて評論家の犬養道子氏は「８億９０００万円もの予算があるなら、もっと他に教育費をまわして欲しいところが沢山ある」と批判している。九州の炭鉱地帯にある小学校は、地盤の陥没のため校舎が傾き、教室は危険で使いものにならない。教室の不足な東京のある学校でも、授業は講堂の板の間である。政府は、もっと子供の教育にプラスになる文教政策を考えて欲しいものである。

昔も今も変わらぬものは文士さんの芝居熱。１９５８年も市川猿之助（２世：猿翁）さんの指導の下に、顔見世文士歌舞伎の舞台稽古が始まった。久保田万太郎さんも入れ歯がはずれるほどの大熱演。「源氏店」（「与話情浮名横櫛」の一場面）では、川口松太郎与三郎と舟橋聖一お富さんが、息の合った名コンビぶりを見せている。こうしていよいよ公演の日。舞台では石原慎太郎さんの助六に、三島由紀夫さんの髭の意休という当代随一の顔合せで「助六由縁江戸桜」吉例文士歌舞伎の一コマである。

１９５８年９月７日、西武線下り電車が埼玉県ジョンソン基地を通過中、乗客の武蔵野音楽大学の学生が米兵の発砲によって即死するという事件が起きた。１０日、容疑者の空軍３等兵（１９歳）の立ち合いを求めて、日米合同の実地検証が行なわれ、発砲は公務外の行為とされ日本の裁判を受けることになった。頼りにした一人息子を失ったお母さんを迎えて母校で音楽葬が行なわれたが、お母さんの希望を一瞬にして奪い去った米兵の心ない仕業に対し、厳正な裁判が望まれている。

１９５８年も豊年、秋祭りで賑わう新潟県の小千谷町。佐渡おけさや仮装行列が雪国らしい雁木の通りを囃していく。祭りの本命は、この土地一帯（古志郡）の山里に古くから伝わる豪壮な牛角力。威勢のいい牛とり若衆に囲まれて、２００貫（７５０ｋｇ）もの猛牛が角を突き合わせて技を競い、負けた牛は観客席に逃げ込んでスリル満点。勝った牛にはお酒を振る舞って勝利を祝う。結びの一番は東西横綱の対決、角を合せて双方慎重な仕切りとなる。

山口県岩国市に、わが国で初の総合的な石油化学工場が完成した。明日の産業の担い手として、石油化学工業の前途が注目されている折から、この工場の新しい技術の応用と、完全なオートメーションの設備は、新しい力となることであろう。（週間話題）