終戦の日、８月１５日。１９５６年も皇居前に襟を正す参拝者の姿が見られる。しかし、街は戦いの苦しみも忘れてしまったような表情である。軍人の銅像は片隅に忘れられ、未亡人は内職で細々と暮らしている。自衛隊はふくれあがり、基地のために人々は肩身の狭い思いをしている。日ソ交渉は思うにまかせず、目下難航中だ。こうしたさなかの１９５６年８月１９日には、ナホトカから第８次のソ連帰国者が舞鶴に帰って来た。しかし、日本国民は日一日と前進を続けている。

オリンピック最終予選を兼ねた第１０回全日本体操競技選手権大会が、東京体育館で１９５６年９月２１日から３日間開催された。女子では１位の池田弘子選手や田中敬子選手、男子では１位の小野喬選手はじめ竹本正男選手、河野昭選手など、それぞれ美しい妙技を競い合った。この大会で１２人（小野喬、竹本正男、久保田正躬、相原信行、塚脇伸作、河野昭、田中敬子、池田弘子、曽我部和子、坂下千津子、久保田恭子、関鈴子）の晴れのオリンピック代表が選ばれた。

１９５６年３月３０日の朝、韓国から９６名の日本人婦女子が、１０年ぶりに門司港に引き揚げてきた。同じ日の夜、日ソ交渉の行き詰まりから松本俊一全権が羽田空港に帰った。報告を聞く鳩山一郎首相も沈痛な面もち。重光葵外相も思案投首。こうした成行きにソ連抑留者の留守家族は、総決起大会を開き、首相に面会を求めて詰めよったが、満足な答弁を得られず肌寒い堀端で悲痛な座り込みに入った。

『敵の基地を侵略してもよい』との鳩山一郎首相の失言から、国会では、再び『戦力なき軍隊』が論議の的になってきた。そのさなかの１９５６年３月１日、福岡県築城飛行場では、日の丸をつけた８機のジェット機Ｆ８６の初飛行が華々しく披露され、また空挺部隊の激しい降下訓練が行なわれている。海では、この程完成した乙型警備艦「あけぼの」の試運転が行なわれ、駆逐艦をしのぐスピードで荒波をけたてている。こうして、自衛権をめぐる論争の中で、自衛隊はひたすら軍備の増強を急いでいるようだ。

１９５６年８月２７日、東京で開かれた第２回日本母親大会では、英・ソ・中などのお母さん方も顔を見せ、母親の力によって世界の平和を守りましょうと固く誓い合った。（週間話題）

話題を呼んだ原子力研究所の敷地は、茨城県那珂郡東海村に決まった。村では早速対策協議会を設けるなど新しい村作りに大わらわである。（週間話題）

冬富士の雪と氷を踏んで若い登山家が幾組も続いて行く。あちこちにテントが立ち並び山は時ならぬ賑わいだ。山頂の観測所では、臼を出してもうお正月の準備を始めている。

１億円にも上ろうという公金を横領して、姿を消した農林省の事務官は、１９５６年６月６日、警視庁へ出頭した。その結果、共犯とみられる茨城県農業共済組合連合会の経理課長は、７日に水戸で逮捕された。横領金をめぐって共済組合連合会会長にも疑惑の目が向けられているが、会長は自分こそ被害者だと息巻いている。一方、事件進展と共に農林省の農林経済局長以下、関係する者の責任問題が追及されている。