名古屋能楽堂に描かれたのは、６００年の伝統に基づく老松ではなく、前代未聞の若松であった。この若松を描いたのは画家・杉本健吉である。杉本画伯は、鏡板に描く松は伝統的に老松であることを知りつつ、あえて前例のない若松を選んだ。日本の誇る伝統芸能・能の世界に大きな波紋を呼んだ名古屋能楽堂の鏡板に若松が描かれた顛末を描く。◆１９９７年４月、名古屋城三の丸にわが国最大級で、名古屋市が総額５５億円掛けて建設した名古屋能楽堂が完成した。この総桧造りの本格的な能舞台の鏡板制作・寄贈計画は、名古屋市青年会議所の有志と杉本美術館館長の本多静雄氏が中心となって進められた。依頼を受けた杉本画伯は鏡板制作のため、老松の写生に出かけるなど準備を進めていたが、推敲を重ねるなかで「伝統とは何か」という疑問がよぎり、その結果、若松を描くことを決心する。依頼主にも許可を取り、若松の鏡板の製作を進める杉本絵師だったが、内心は不安で一杯であった。それでも伝統に挑戦することを決心し、制作に取り組む杉本画伯の姿を描く。

大気を浄化し、地球の風土を作り、豊かな恵みで人々の暮らしを支える「森」と「水」の不思議を解きあかす。◆森の木々は、太陽の光エネルギーを利用して炭酸ガスと水から炭水化物を作り、酸素を放出する「光合成」を行うことで成長を続けている。地球のガス交換器の役割を果たしている森の減少は、大気中の炭酸ガスが増え、気温が上昇する「温暖化」が起こるなど、地球全体の気候に影響を与えている。

長崎県対馬の南端、豆酘、浅藻の集落は、朝鮮半島と日本とを結ぶ海の道として栄えた。海の向こうから伝わった暮らしを紹介する。大漁を祈願する「えびす祭り」、１年の吉凶を占う神事「サンゾーロー祭り」は、お経と祝詞が同時にあげられる神仏混交の名残がある。先人の知恵を受け継ぎ生かしながら、海とともに生きる暮らしが今も続いている。◆えびす祭りサンゾーロー祭り

作家・瀬戸内寂聴が、千年の時を越えて読み継がれてきた「源氏物語」について、自身の現代語訳をもとに語るシリーズ。個性豊かで魅力的な女性たちにスポットをあて、その生き方や性格・心理を読み解き、読者を惹きつける物語の魅力を探る。（４月７日～６月２３日、全１２回）◆第５回は、短い恋のすえにはかなくなった夕顔の女について。

最先端の研究から一見役に立たないようなユニークな研究まで様々な研究者を訪ね、研究テーマと素顔を紹介する。◆この回登場するのは、京都大学農学部の伏木亨教授。なぜビールのつまみは枝豆がいいのか、スナック菓子はなぜやめられない止まらないのかなど、味覚のメカニズムの解明に取り組んでいる。「生物は本能的に、体がその時に必要なものをおいしく感じる」という。居酒屋が研究室と語る伏木教授は、ほろ酔い気分で「なぜ酔った後でラーメンを食べたくなるのか」というテーマに思いを巡らせる。

長野県飯田市の郊外で地区唯一の専業農家の、自然に感謝し、昔ながらの年中行事を大切に受け継ぎ、季節の節目を彩って暮らすゆったりとした日々を追いながら、慌ただしさの中で失いがちなゆとりや豊かさを考える。◆この農家は老夫婦、若夫婦、そして孫二人の６人家族。そして５０頭の乳牛を飼っている。春はもみ蒔きから始まる。一年の稲作の成否を決める作業だ。苗が出そろった５月、７ヘクタールの田植えが始まる。稲作にまつわる行事は多いが、小正月はその年の豊作を祈る大事な日で、一家総出で一日がかりで準備する。高さ２メートルほどのつげの木にまゆ玉を、榊の木に柿玉を、竹の枝には無数の餅花をさして座敷に立てる。

戦時下に暮らす家族の風景、男女の愛と苦悩を描く。◆航空隊のある小さな町、風の浦。母・すず子は遊郭を営み、女として自由奔放に生きている。長女・冬子はそんな母親に反発し、かたぎの郵便局勤め。ある日、航空隊の若い士官たちが店に現れた。いずれは出撃する運命の若者たちと女たちは心を通わせるようになる。

鉄や青銅などの金属がまだ貴重であったアジアの黎明期。大帝国・漢の西と東に不思議な大型の青銅器が産まれた。東南アジアに広く分布していった銅鼓と、日本の古代史を彩る銅鐸である。両者の共通性と違いは何か。鹿児島大学の新田栄治教授が、銅鼓を追ってスマトラ、ジャワ、バリとインドネシアの島々を旅する。東南アジアの歴史と文化シリーズ。