京都の北にそびえる聖なる山、鞍馬山。古代の人々が敬いおそれた幻想の世界。鞍馬寺は平安京を守る毘沙門天が祭られ、北方の守護神として信仰を集めていた。◆昼なお暗い鞍馬山の木立や岩の自然。毘沙門天・聖観音・魔王尊などの神々の伝説。そして幼いころ天狗に兵法を授けられたといわれる、源義経とのかかわりなどが展開される。王城鎮護の地、天狗の霊界。人々が聖なる地を求め平穏な日々を願うための信仰の山、鞍馬山に入る。◆【国宝】毘沙門天及吉祥天、善膩師童子立像〔鞍馬寺〕◆【重要文化財】兜跋毘沙門天立像、銅燈篭、木彫聖観音菩薩立像〔鞍馬寺〕

作家・井出孫六さんが初夏の国東半島を訪れ、富貴寺大堂をたずねる。◆国東半島に仏教が伝えられたのは奈良時代。その険しい山々は、人々の厚い信仰心を養ってきた。平安時代の末、戦火が相次ぎ人身が荒廃する中、浄土を願う欣求浄土の思想が流行。富貴寺大堂もこうした浄土思想に基づいて建てられた。◆「僕は今まで中世に対してとかく貧しく暗いイメージを持っていましたが、ここに座って当時を想像してみると、豊かな、そして浄土への憧れという国東の民衆の精神世界が思い浮かびます」。９００年を超える富貴寺大堂の歳月を目のあたりにした井出さんは、本尊の前に座して感想を述べる。

１９６８年３月２日、１４５人の南米移住者を乗せて横浜港を出港した「あるぜんちな丸」。成功、挫折、死など、明治百年の年、ブラジルに渡った移住者たちの２０年の歳月を追い、人生模様を描く。（前後編）◆前編。「あるぜんちな丸」に乗り合わせたのは１２組の家族、６組の夫婦、１９人の移住花嫁、４３人の単身青年など。彼らの５０日間の旅を同行ドキュメントしてから、７年後、１０年後にも消息を尋ね、今回４回目の取材で集大成とする。１０年前には好景気を背景に、暮らしも落ち着いた移住者のだれもが、１０年後の姿を見てほしいと語った。しかし今回は多くの人がひどいインフレにあえいでいる。

八代将軍徳川吉宗が、お忍び姿の徳田新之助に身をやつして江戸の町を歩き、庶民とふれあい、不正を正す連続時代劇。◆「魔性の女の涙雨」。油問屋・河内屋の主人が不審な死をとげた。吉宗（松平健）は、河内屋の女房・八弥（蜷川有紀）が再婚で、次々と亭主を殺してはその財産を乗っ取っているとの話を聞く。そのことで紋次（井上茂）という男にゆすられているともいう。だが紋次は殺され、訪ねていた吉宗も何者かに襲われた。やがて、八弥は没落した公家の出らしいとわかる。

沖縄の美しいサンゴ礁で、ユニークな生活をしているトウアカクマノミの一生を軸に、サンゴ礁で暮らす生き物たちの生存競争を描く。◆沖縄県・慶良間諸島の海は、冬でも水温２０度を下らず、沖縄でも指折りのサンゴが群生している。色鮮やかな魚をはじめとする生き物の天国は、同時に激しい生存競争の戦場でもある。サンゴに張り付いて暮らすガラスハゼ、穴をあけて砦を作るカニ、トウアカクマノミの家はイソギンチャクだ。トウアカクマノミは家族を形成して規律正しく生きる。彼らは全部オスとして生まれ、家族の序列で最上位の個体が性転換して母親となり、２位が父親となる。

１２００年以上も前に建立された「奈良の大仏」の、建立の動機などの謎を解明する。◆奈良・東大寺の盧舎那仏坐像（大仏）の開眼法要が営まれたのは、７５２年のことである。その後、数度焼失し現在の大仏は高さ１４９メートル、顔だけでも５メートルもある。開眼当時のものは現在のものより一回り大きかったというから、人々の驚きが想像できよう。作家・邦光史郎さんは大仏建立の理由を、人々の幸福と安全を願うと同時に中国王朝に倣った天皇の権力誇示と考える。

日本古代国家成立の歴史を「渡来人の歴史」ととらえ、どこからどのように国家を成立させていったのか、シリーズ４回までの成果に新たな仮説を加えて展開する。◆大陸・半島からの眼、いわば渡来人たちの視点から東アジア全体の中の日本を見つめ直し、古代のナゾにせまる。◆読売テレビ開局３０年記念番組。

京都・西本願寺の一画、滴翠園の池に面した三層の楼閣・飛雲閣を演出家の蜷川幸雄さんが訪ね、その美を探る。◆飛雲閣の外観は二層、三層を左に寄せた左右非対称で、変化に富み自由な造形である。「柳の間」「茶室」などのある一層は静かな落ち着いた雰囲気、二層の「歌仙の間」は壁に三十六歌仙の「歌仙図」が描かれ、ここで人々がにぎやかに詩歌に興じた様がしのばれる。天井、壁すべてを金色に施した三層の「摘星楼」は、その輝きで客人の眼を奪ったに違いない。「各層それぞれに違う宇宙が広がり、不思議な体験を連続的にさせられる。まるで一つの芝居を見るような建物で、大変な演出だ」と蜷川さんは感動する。