この年（１９９４年）、「春の海」等の名曲を遺した筝曲の巨人、宮城道雄の生誕１００年を記念する行事が各地で開かれた。記念演奏会から、初期の代表作３曲を紹介する。７歳の時に失明した宮城は、１２歳で生田流の免許を受けた。「水の変態」は１４歳の処女作で、筝曲に新風を開いたと評価された。「初鴬」も２１歳の時の作曲で、青年期の創作意欲が汲み取れる作品である。東京音楽学校教授、芸術院会員として、永く作曲、演奏、教育の分野に偉大な功績を挙げた。１９５６年没。◆筝曲「数え唄変奏曲」、筝曲「水の変態」、筝曲「初鴬」

かつて「寄席」は大衆芸能の中心で、東京に１００以上の小屋があった。その「寄席芸」の中に、義太夫、長唄や端唄のサワリだけを繋ぐ「音曲吹き寄せ」があり、明治から昭和にかけて活躍した立花屋橘之助は、女大名といわれるほどの盛名を謳われた。「春宵吹寄ばなし」は、故西川鯉三郎が芸妓の人気落語家へ掛ける思いを清元に振り付けた名作で、娘の西川左近が踊る。二曲目は名人、故日本橋きみ栄の演奏で、二人と親交があり、直接教えをうけた山田五十鈴の話を交え、鑑賞する。

　濱田庄司が自らの暮らしと仕事の場であるこの地に益子参考館を建てたのは、１９７４年のことであった。“用の美”を唱え、バーナード・リーチ、柳宗悦らと民芸運動を推進した濱田は、皿や茶碗など、民芸陶器の制作の傍ら、世界各地から数千点に及ぶ生活用具の蒐集に勉めた。先人の知と手の温もりを広く共有したいという意図により、「美術館」ではなく「参考館」と命名された。その開館の翌年、濱田は８３歳で亡くなった。

小澤征爾は１９３５年（昭和１０）、中国の瀋陽（旧満州・奉天）で生まれた。札幌市と瀋陽市が姉妹都市１５周年を迎えるのをきっかけに、小澤が長年抱いていた「生まれ故郷を一度訪れ、地元のオーケストラを指揮したい」という夢が実現することになった。しかし、小澤の超過密スケジュールの中で空けられるのは、わずかに４日間しかなかった。遼寧交響楽団は文化大革命の嵐の中で、音楽の基礎教育を受けられずに育った団員ばかりのオーケストラである。故郷の楽団という思い入れがあるにせよ、小澤の夢は演奏会で実を結べるのだろうか。リハーサルから演奏会までの４日間を密着取材する過程で、世界の一流オーケストラを振るいつもの小澤とは違う、遼寧交響楽団のレベルまで下りて団員を叱咤激励しながら音楽作りに悪戦苦闘する姿を描く。

大津絵は絵画の中でも民画と呼ばれ、時代の権力者に重用された狩野派や琳派などとは違う民衆の間から生まれた絵画である。江戸時代、東海道をはじめ多くの街道が集中した宿場町・滋賀県大津の追分で生まれ、江戸時代に旅人の土産物として全国に普及した。豊かな表情、単純な線と色、痛烈な人間心理の風刺、ユーモラスな表現で理不尽な世の中を笑い飛ばす。職人が描き庶民が支持した健康な大津絵も、明治以後は急速に姿を消す。現代の大津絵絵師や大津絵を愛する人の証言から、大津絵の魅力に迫る。◆【重要文化財】園城寺宸殿【その他】江戸仕入大津土産（喜多川歌麿画）◆大津絵・鬼の念仏、瓢箪なまず、青面金剛、猫と鼠の酒盛

戦時中、強制連行された中国人が蜂起し虐殺されたという「花岡事件」から４８年。１９８９年に事件生存者と遺族が当時の使用者だった会社に対して公式謝罪と賠償などを求めてからの動きを伝える。◆１９９０年と９２年の直接交渉では、会社側は日本企業としては初めて強制連行の事実を認め謝罪の気持ちを表したものの、中国人を労働力として受け入れたのは当時の国策によるものであり、犠牲は戦争によるもので企業に責任はないと主張している。

１９０６年から３９年間、日本の大陸進出に大きな役割を果たした「満鉄」。このため満鉄については、これまで多くを語られることはなかった。山田洋次監督、加藤登紀子、岩波ホール支配人の高野悦子さんが、満鉄で青春を過ごした父の人生を振り返る。

多摩丘陵をその源とする鶴見川周辺には、古代から人々が生活し、様々な文化を残してきた。周辺の景観と人々の生活を歴史、民俗、自然などをおりまぜて紹介する。