昭和３６年度も６人の文化勲章受賞者と５人の文化功労者が決まった。文化勲章を受ける日本画の堂本印象さん、仏画にまた日本の抽象化に意欲的な活動を続けている。陶芸家の富本憲吉さんは独学で古九谷の味を現代化し気品高い作風で知られ、色絵の焼付には他にならぶ人なき優れた技術をもっている。功労者の異色は柔道の三船久蔵十段、世界の柔道へと６０年の精進が高く評価された。８２才の石原忍博士はトラコーマの研究や色盲検査表で世界的に有名な医者、現在も日課の検査表作りに余念がない。博士の新しい文字の研究は眼科医の経歴を生かした国語改良のライフワーク。現在の日本語では世界に遅れを取るばかりと意気盛んでこの道一筋に生涯の努力を傾け、今なお厳しい学問の道に励んでいる。

肺動脈狭窄症の為手術しなければ２０歳までも生きられない少女、その手術もＢ型のＲＨマイナス因子という１０万人に一人しかいない血液型なので血が集まらず不可能。毎日新聞が彼女の救援を全国に呼びかけた。国籍を越えて在日米軍や外国人から飛行機や列車で血液リレーが行われ、必要量をはるかに上回る８千ＣＣが送られた。１９６１年４月１３日、秋田県立中央病院で心臓外科の権威榊原仟博士のメスによって手術が行われ成功した。暖かい人々の奉仕によって少女は救われた。

予算編成が終ればいよいよ国会の開幕。今度ぐらい公約を実行した予算はないと自信満々の池田勇人首相。その自慢の鼻を折ってやろうと、参議院では社会党の江田三郎委員長代理が、値上げムードの政策を突いて質問１陣に立った。こうして院内では大型予算案をめぐって激しい論戦が始まったが、どうやら予算案に対する風当りは日増しに強くなって行きそうである。

世界のアマチュアレスリング選手権大会は２１カ国１５０名の強豪を集めて、横浜慶応の日吉記念会館で開幕。日本期待のフリー・スタイルはバンタム級風間貞勝・フェザー級佐藤多美治・ライト級阿部一男がいづれも４位、ホープ松原正之は５位。唯一決勝リーグに進んだウェルター級兼子隆は健闘むなしく３位。かくて、総合１位はイラン、日本は４位となり、東京オリンピックを前に余りよくない成績に終った。

神風ダンプカーの交通事故が相次ぐ折も折、１９６１年１月１７日早朝、小田急電車が和泉多摩川鉄橋脇の無人踏切で衝突して、車輌２台が河原に転落する惨事が起きた。原因はダンプカーが警報を無視して一時停車を怠ったためと見られ、乗っていた運転手は即死した。幸い乗客が少なかったので重軽傷者は２２名で済んだが、すし詰めの満員電車だったらぞっとする大惨事となるところだった。全国の踏切のうち魔の無人踏切は９割を占る肌寒さ。国鉄では公安員を派遣したりしてはいるが、それも１日１時間という申し訳程度だ。夢の立体交差はなかなかはかどらず、当分は遮断踏切。ところが駅構内の近くでは開かずの踏切といわれるほどの混雑で、激増した車をさばき切れない。ノルマに追われる砂利トラックは、取り締まりの厳しい表街道を避けて裏街道の無人踏切へ。止まれ。突っ走るな。これだけでは神風ダンプカーは無くなりそうもない。

１９６１年４月２８日の上野や新宿駅は行楽客で足の踏み場もない。運賃値上げも何のその、レジャーブームで客は行楽地へ向かう。２９日の天皇誕生日は１０万人が参賀に訪れ、兵庫県六甲山は３万５千人ものハイカーで山は超満員。山開きを迎えた福島県吾妻山には３千人もの客、５月１日の第１３回メーデーには東京の中央会場に６０万もの人の波。

東京の朝はこのところめっきり冷え込み、サラリーマンの出勤時間が集中して各駅では大混乱である。ピークともなれば積み残される人が駅にあふれ、いまにも事故が起きそうな危険状態。ついに国鉄始まって以来の改札制限まで行なわれた。それでも続く混乱に始発電車の手配を各駅で行なうという非常手段をとってみたが、やはり残留組が続出だ。国鉄ではもう手の施しようもなく、勝手にお取り下さいと遅延証明書を乱発。これでは悩み多きサラリーマンの足はますます重くなるばかりだ。

春とはいえ雪におおわれた青森県の八甲田山では自衛隊の訓練が行われている。その昔旧陸軍青森連隊の一部隊が吹雪のため全滅した難所も装備と天候に恵まれて進軍も快調。長野市の善光寺はお彼岸の中日１０万石の大名行列をくり出し御開帳の前景気あおっている。お彼岸とあれば犬猫の仏を供養、東京の多摩霊園は奇特な人間達でにぎわった。また、慶応中等部の３３名の生徒は１０日間の米国旅行に出かけることになり、旅費は１人ざっと４０万円、すねをかじられた両親に見送られて１９６１年３月２３日、羽田を出発した。