全国で約１１億通の年賀郵便をさばくため、手狭な郵便局ではパイプ・ハウスの臨時郵便局を設けて大奮闘。消印は１分間に６百枚も処理出来る機械を総動員して、昼夜兼行の追い込みである。それでも整理しきれず、アルバイト学生までかり出して整理に大童。その上、最近大型化したダイレクトメールや小包がぐっと増えて、郵便ラッシュに拍車をかける。いよいよ大晦日、局員たちの苦労が実って年賀郵便は新年を待つ。明けて１９６１年、第１号便の出発式は小金義照郵政大臣も出席して、東京の本郷郵便局で行なわれた。鳴り物入りでお正月の街へ門出する配達員の鞄には年賀状が一杯だ。元旦だけで２５００通も受け取った池田勇人首相を最高に、スターともなれば目を通すだけで半日かかる。スキーをはいた配達員が行く、北の果て北海道にも新雪を踏んで年賀状が届けられた。無事に新年の挨拶を伝えて、年賀状もほっとしたことだろう。

「どれ、おばあちゃまがだっこしましょう」と、嬉しそうな皇后さま。あどけない浩宮さまを囲んで、なごやかな皇室ご一家のお正月である。丑年のおじいさまは今年が還暦のお祝い。義宮さまはどんなお妃を選ばれるのか。可愛い浩宮さまは間もなくお誕生日がやって来る。

スプートニクの打ち上げから４年目、ソビエト連邦はついに有人宇宙船飛行の夢を実現した。既に犬を乗せた人工衛星船の回収に成功した科学陣は、その後に数回の動物実験を重ね、人間の宇宙飛行の準備を着々と進めてきた。１９６１年４月１２日、ソ連はユーリ・ガガーリン少佐を乗せた世界最初の人間宇宙船ボストーク号を発射。地上約３００キロの軌道に乗せて、１時間４８分で地球を一周し、無事地上に回収することに成功した。４月１４日、着陸基地からモスクワに到着したガガーリン少佐は、フルシチョフ首相に帰還の報告を行い、熱狂的な歓迎を受けた。人類は果てしない宇宙へ向かって新しい時代の１ページを開いたのである。

フランス・パリの町外れのゴミ捨て場から拾い集めたガラスの破片をノリで貼り付ける前衛画家ロベール君の作品は、芸術と廃品回収の一石二鳥。ピエール君は頭からすっぽり袋をかぶって無念無想、手探りで絵具を塗りたくる。片や廃品回収、片や手探りと、変わった手法を持つパリの芸術家たち。

米どころの佐賀県白石平野では、名物餅すすりで細く長くと新年の縁起を祝う。大阪府貝塚市は水間寺に伝わる千本づき。その昔、行基大僧正が聖観世音菩薩の尊像を拝受したお祝いに、十六童子が木を切り棒を作ってついたのが始まりである。「厄難厄除け観世音」と、たかだかとつきあげた。京都島原の角屋では、くるわ情緒の名残をとどめて色香も匂う餅つきの行事である。日光東照宮では身を清めた神職たちが、霜夜の真夜中から明け方にかけて、土間をゆるがせて威勢のいい杵の音を響かせる。北海道江差町では、ニシン漁の賑わいを餅つきばやしで再現する。色とりどり各地からの餅だよりである。

第４回東京国際見本市は１９６１年４月１７日華やかに幕をあけた。今年は貿易自由化が反映してか外国のお客さんがどっと押し寄せて、見本市始まって以来の盛況。２２の会場には日本のテレビ電話や、最高スピード９０キロもでるアメリカのエアー・カーなど各国自慢の工業製品およそ１２万点が話題を呼んでいる。

みぞれをついて始った大学受験シーズン。全国５百以上の大学で一番の憧れの的は東京の一流大学で、試験地獄は激しくなるばかり。一方、文教設備の悪い地方大学は嫌われている。例えば名古屋大学は、明治６年頃建てられた兵舎が今も学び舎になっており、馬小屋が職員寮なのだ。埼玉大学の藤岡由夫学長は「おんぼろ校舎で研究費も少なく、立派な研究室もない学校では、先生が一流大学にみんな引き抜かれてしまうから益々悪くなる」と語っている。校舎の傷みかたでは一流の新潟大学では、廊下に穴があいたり壁は落ちるというスラム地帯と化して、古い校舎の半分が通行禁止となった。一時は大雪のため授業中止も行なわれ、いつ崩れ落ちるかもしれない屋根の下では落ちついて勉強もできない危険状態だ。ついに取り壊し作業が始まったが、国から改築予算が出るのは３年先の事。大学は増えても地方大学の育成は、雪国の春のようにまだ遠い先のようだ。

全国７万５千人のお医者さんの組織、日本医師会に君臨する武見太郎会長は人呼んでケンカ太郎。医療費の値上げなど４項目を掲げて一斉休診を宣言、池田勇人首相をはじめ政府自民党幹部は事態収拾の緊急協議となった。古井喜実厚生大臣も、もう打つ手は無いとお手上げ。解決は任せろと、武見会長を呼んだ党３役も、相手に不足ありとアッという間に会談を打ち切られ、席を立たれてしまった。右翼もお決まりの凄味を効かせたが、「まあこれでも読んで下さい」と武見会長の毒気に当てられて追い返されてしまった。指令に応じて１９６１年２月１９日の全国一斉休診、大阪でも医療危機突破抗議大会で気勢を上げる。消防庁では消防自動車を救急車に仕立てて急病人に備えた。医師会会員から生きた鯉を贈られ、武見会長は瀧にも登る勢いだ。