第３回アジア競技大会の聖火は、１９５８年４月２２日、フィリピンのマニラ・リサール競技場で点火され、東京まで４８００余キロにわたる聖火リレーのスタートを切った。海上自衛隊機で沖縄を経て、２５日鹿屋空港に到着、３９００余名の選手の手でリレーされ、日本を縦断して東京へ向かうのである。

夜明けと共に、凍りつくような東京湾では、今日も忙しい海苔の採取が始まっている。１９５８年は海苔の当り年で、一冬の稼ぎ高は、一戸当りおよそ５０万円という嬉しい豊作景気である。しかし、この海苔場も、大都会の拡張の犠牲となって、埋め立てられて行くのにたまりかねた千葉県長浦の漁民たちは、４００艘の船を連ねて海上デモを行った。憎い干拓工事の役人に仕立てた藁人形をめがけて水鉄砲の集中攻撃、とんだ源平合戦の一日であった。

山口県の徳山湾には、７０００メートル余の海底油送パイプが這い、５００００トンタンクが山のようにそびえている。この程８５０００重量トンのマンモスタンカーが入港。いずれも世界最大を誇っている。（週間話題）

水戸の東武館道場では赤胴鈴之助を夢みる豆剣士たちが、竹刀に振り回されながら稽古に励んでいる。東京の道場ではお嬢さんもまじって空手の稽古。大阪では元軍人の面々が、木銃構えて意気盛んなところを見せている。あの頃を思い出させる銃剣術も、いつの間にか息を吹き返して来たようである。

およそ１２００人のハンセン氏病患者が、病苦と闘っているある療養所。１９５８年１１月１５日、折から東京で開かれている国際会議の代表たちが見学に訪れた。わが国に初めて設けられた理学治療室では、電波で患者の筋肉の発達を助けたり、鏡で発声や歩行の練習を行っている。患者も明るい希望を蘇らせて来た。社会復帰に備えて、美容師や運転手の職業補導が熱心に行われている。患者だけで組織された消防団が、一般社会と少しも変わらぬ活躍ぶりを示す。視覚に障害をもった人たちもハーモニカ合奏団を結成して見事な演奏である。待ちに待った退所の日、送る人、送られる人、ともに生きてきた喜びにひたる再出発の感激である。

南極から帰った西堀栄三郎さんは、早速お母さんのもとに挨拶に行った。南極観測船「宗谷」の山本順一航海長は、苦しかった氷海の思い出を静かに語る。１９５７年１２月２０日、エンダービー沖に到着した「宗谷」は、氷を爆破しながら前進。氷海を脱出し、米国の砕氷艦バートン・アイランド号との会合、第１次越冬隊の収容と第２次越冬隊の空輸、逆転して隊員の救出へ。１９５８年２月２４日ついに越冬観測を断念、涙をのんで離岸したのであった。

１９５８年１２月６日、東京麻布のテニスクラブに、皇太子さまが正田美智子さんとご婚約後初めてご一緒に姿をお見せになった。お二人は仲良くペアーを組んで、軽井沢以来３ヵ月ぶりのテニスに楽しいひと時を過ごされたが、和やかな小春日和に溶け込みそうな、睦まじいお二人であった。

秋の訪れとともに、１９５８年も美術のシーズンがやって来た。軽井沢で木版画に精を出すオリビア・フィッシャー嬢、紙と鋏で作る独特の版画に熱中する浅草のカッパ会の子供たち。関東医療少年院では、版画の制作が収容児の補導に効果をあげている。駒井哲郎さんは、近づく個展を前にして「森」その他繊細なエッチングの制作に打ち込んでいる。一方、青森県八甲田山麓に遊ぶ棟方志功さんは、その天衣無縫の人柄から、奔放独自な作風を展開。活発な制作活動が秋を豊かに彩っている。