東京小岩のタクシー運転手新見さん夫妻は、２ヶ月前３つになる一粒だねの坊や正広ちゃんをダンプカーの事故で失った。愛児を亡くした新見さんの嘆きは、会社の同僚にひと事でない切実な訴えとなった。我々がいっそう気をつけなければと固く誓いあった運転手さん達は、香典代わりにポケットマネーを出しあい、安全運動を始めた。警察に協力を仰いで幼稚園や小学校を次々に訪問。自分達の経験を生かした交通道徳の講習会を開いたり、また勤務の合間には近くの小学校の通学時間に緑のおじさんをかって出るなど、会社ぐるみ事故の防止にのり出した。二度と正広ちゃんの悲劇をくり返すな、交通事故から子供を守ろうとの願いをこめて、今日も運転手さんは町を走っている。（カメラ・パトロール）

大衆小説の創始者として親しまれ、「宮本武蔵」「新平家物語」「私本太平記」など多くの名作を残した吉川英治さんが、肺癌に脳軟化症を併発、１９６２年９月７日朝、７０歳の生涯を閉じた。昭和３５年（１９６０）には文化勲章を贈られるなど貧困の底から筆１本で身を起こした吉川さんは、また人情味豊かな人生の達人でもあった。（週間話題）

１９６２年７月１日は参議院選挙の日。６億円をかけた国民総投票運動のかいがあって投票率は６８％と戦後２番目の好成績をあげた。自民党は快調のすべりだしを見せた。迫水久常、安井謙両氏も現職大臣の強みを発揮して当選。元航空幕僚長の源田実氏も自衛隊の組織票にのって初の政界入りすれば、テレビタレントの藤原あきさんも婦人票を集めて全国最高点で当選した。社会党は地方区で順調な出足を見せたが全国区が振るわず、単独で３分の１の壁を破るには一息といったところ。振るわなかったのは民社党、曽祢益書記長も苦戦のすえようやく面目をほどこした。目ざましい進出は創価学会で参議院の第３勢力にのしあがった。圧倒的な勝利をおさめた自民党では投票がすむと突然藤山愛一郎経済企画庁長官が辞表を出して池田勇人さんをまごつかせた。総裁問題を控えて屋台骨にひびが入った池田内閣、勝利に酔ってばかりはいられない。

にせ札発見者には千円以上をさしあげると懸賞金までついた。あるデパートでは警視庁の専門家を招いて講習会を開いた。しかしニセ札は非常に精巧にできていて、大部分が銀行で発見されるなど捜査の手がかりがつかめない。昨年暮れから出回っているニセ札は最近新たに２種類が加わり１１種１４枚となり、新しいニセ札は東京、茨城、埼玉で集中的に使用されており捜査当局も緊張。地下印刷局を追って非常体制に入った。印刷者のリストも出来上り、２００人という空前の特別捜査班が編成された。ニセ札の使用されやすい競輪場では厳重な張り込みが行われているが全く雲をつかむような捜査でその苦労は並たいていではない。ニセ札に手をやいた大蔵省は１９６２年８月１３日ついに来年から新千円札を発行すると発表。事前に予告するという異例の措置をとった。

アメリカの３番目の人間衛星、シラー中佐を乗せたシグマ７（セブン）が１９６２年１０月３日ケープカナベラルから打ち上げられた。我が国では郵政省の電波研究所がシラー中佐の肉声を見事とらえた。日本の観測技術は今まで米・ソ両国が秘密にしてきた衛星船の周波数もキャッチ、その優秀さは世界に高く評価されている。電波研究所では更に高度の観測を目指して、茨城県鹿島灘に東洋一のパラボラアンテナの建設を急いでいる。こちらは日本のマーキュリー計画の基地として注目を浴びている防衛庁航空医学実験隊。パイロットの重力耐久テストを行う遠心力発生装置のカプセル内には、マイクやテレビカメラ、心電計など各種記録装置が積み込まれている。パイロットの適正検査や耐寒耐水服の実験も行われている。宇宙服を着て低圧タンクに入り、高空での気圧の変化に耐えるテストも。血液が沸騰する高さの危険に耐え、宇宙への手掛かりをつかむ日本の宇宙飛行士候補生である。

勤労感謝の日に行なわれたパレードに参加した河野一郎建設相・重政誠之農相の両大臣、タスキがけの美人に囲まれて御満悦のていで都内をねり歩いた。つづいて開かれた式典で、米作りナンバーワンの小池さん始め６人の日本一が天皇杯を受けた。農林・水産業などの近代化と技術、経営の向上をめざす催しは今年から毎年続けられることになった。（週間話題）

東京都足立区の６歳の男児が昨年末、燃えたガソリンを浴びて下半身を大火傷して重体。望みは皮膚移植しかない。この子を助けようと病院の人々の訴えに答えて韓国の大学生を始め、７３人の人々の尊い皮膚が寄せられて手術が行われた。全身の５１パーセントという皮膚移植は世界でも例がなく、すべてがこの移植手術にかけられている。

ソビエト連邦は宇宙船のアベック飛行を実現するため、ボストーク３号の打ち上げから２４時間後にボストーク４号を発射し、同時に２機の宇宙船を地球周回軌道に乗せることに成功した。３号から送られるニコラエフ少佐の映像と声が地上のテレビにキャッチされ、フルシチョフ首相がお祝いのメッセージを送った。３号と４号の２つの宇宙船はたがいに通信を交わしながら軌道を巡り、３号は６４周目、ポポビッチ中佐を乗せた４号は４８周目に無事着陸。ボストーク２号の打ち上げから１年の沈黙の後、ソビエトの今回の成功はまたしても全世界を驚かせた。