岩手医大病院に入院中のこの坊やは心房中隔欠損のため手術を受けることになった。手術は人工心肺を使わず超低温麻酔法と言う独特な方法で行われた。３０度以下に体温を下げると危険だという学界の定説をくつがえし、体温を２０度以下に下げて１時間でも２時間でも心臓を止めて落ちついて手術を行う。この方法は人工心肺の１０分の１と言う格安な経費で済むことと、患者の体力消耗が少ない等多くの利点があり、世界の医学界から注目を集めている。

秋田県白岩集落は東北の山々を舞台とするまたぎの本拠。銃をかついだ一行はオヤジと呼ぶ熊を追って春またぎに向かう。山にはいると里言葉を止めてまたぎ言葉しか話さず、食糧も自給自足という厳しい生活を守り続けてきた。山奥のふかくついに見つけたオヤジのふん、早速二手に別れて包囲した緊張の２時間の後、手練の村田銃のねらい確かに獲物をしとめた。１０日余りの苦労も忘れてまたぎたちは山を下りて行った。

アルジェリアの独立と民族自決に対しウィかノンか、フランスの良識をかけた国民投票が１９６２年４月８日行なわれた。ドゴール政策を９０パーセント以上が支持、秘密軍事組織ＯＡＳに手厳しい審判を下した。テロの続くアルジェではアジトから武器弾薬が押収されていくかたわら、犠牲者もすでに３千人をこえている。追い込まれたＯＡＳの最後のあがきは今日も暗い影を投げかけている。

白波をけたてて進む上陸用舟艇に乗って、陸上自衛隊第１１師団の無医村診療班が、北海道積丹半島川白地区に向かう。この辺りは道らしい道もなく交通は海にたよる陸の孤島、部隊は海上自衛隊の応援で目的地に到着。重い機材を陸上げして村の小学校に診療所を開いた。日頃医療に恵まれぬ村人で診療所は満員。婦人自衛官も活躍。手あつい治療を施す。また定期診断すら受けられぬへき地の子供たちの健康状態も調べられる。一方慰問を担当するのは音楽隊。村人の協力で開かれた浜辺のコンサートは、ふだん娯楽に乏しい村人に喜ばれた。こうして無料サービスの診断を終えた部隊は、村人からまた来て下さいと感謝の声に送られて、海路をつぎの目的地に向かって出発していった。

相次ぐ火山の爆発、まかり通るニセ千円札、１億総推理時代を招いた山中湖畔の怪死事件。堀江ヨット青年、１９歳のチャンピオン原田など様々な話題のある中に最も今年を代表するものは交通戦争の激化。車の洪水と悪路がつくり出した交通地獄の中に子供も巻き込まれ、その犠牲者は小児麻痺を上回る激しさ。道路だけでなく海の上も交通ラッシュ。古い港湾施設と野放しの海上交通のため危険がいっぱい。京浜運河のタンカー事故は海上ラッシュの限界を警告した。レールの上も過密ダイヤや無人踏切。三河島事件はこうして起るべくして起きた人災。通勤電車に乗るのも命がけ。道路も、海も、レールも、電車も、すべて交通戦争の場となったこの１年、その対策は来年に持ち越されることになった。

日本の碁を研究したいとオーストリアのホルスト・ミューラー君が稼ぎ貯めた６百ドルを持ってやってきた。瀬越憲作名誉九段を訪問。東京に１年間滞在して勉強し、ヨーロッパのチャンピオンになると張り切っている。山口県岩国のアメリカ軍基地ではこの程相撲部屋が誕生した。現在青い目の関取は１１人だが、自衛隊の土俵を借りて稽古に励んでいる。テッポー・プッシングも堂に入ったもの、今では四十八手もマスター、すでに山口県の大会で個人優勝２回という猛者もいる。この分では柔道に続いて相撲もうかうかできない。青い目の剣豪はアメリカ軍人のジョセフ・カミンズさん。今日は野試合、居合い抜きは５段の腕前というカミンズさんは、免許皆伝の虎の巻を授かるのも間近ということ、日本の国技も外国人にだんだん株を取られてしまいそう。

毒ガス工場として戦時中はベールに閉ざされていた瀬戸内海の大久野島。戦後は廃虚と化し、人も寄りつかなかった。毒ガスに冒された元工員達、戦争の隠れた犠牲者として２百人もが今も不治の病に伏している。このほどこの島と、対岸の広島県忠海との間に送電線架線工事が始められた。両岸からくり出されたメッセンジャー・ワイヤーが船上で結ばれ、３３５７メートルの海峡いっぱいにケーブルがはり渡された。四国と中国の海上、３３キロを結ぶ大規模な２２万５千ボルトの送電線工事の中でもこの島と忠海に立つ鉄塔は、世界最高の２２６メートルを誇る。年内の送電開始を目指して急がれる工事の一方、、島を国民宿舎の村とする計画も進み、すでに一部では若い人達の元気な声が聞こえるようになった。こうしてかつて人も寄りつかなかった毒ガスの島は、時代の流れとともに大きく生まれ変わろうとしている。

１９６２年１１月３日ヨットレースで遭難した早・慶ヨット部員１０人の捜索は警備艦、巡視船３４隻を動員した大がかりな海上捜索となった。既に発見された２名のうち、早稲田の上田君は変わりはてた姿で故郷に帰ってきた。もう一人の手塚くんの葬儀にかけつけた友達は「なぜヨットになんか乗ったんだ」と涙ながらに呼びかけた。残る８人の遺体を求めて、房総沿岸の捜索本部にはＯＢたちも含め約６０人が集まり、海と岸の二手に分かれ連日、けんめいの捜索が続いた。早風号のスピンブームや遺品らしきものが発見されたが、肝心の遺体はついに見つからず、一週間に渡る捜索は打ち切られた。駆けつけた肉親の姿も痛々しく、死者２名行方不明８名、ヨット部員達は無情の海に帰らぬ友の冥福を祈った。