３月１日はニューヨーク市のジョン・グレン・デー。宇宙時代の新しい英雄を迎えて市民はリンドバーク以来の興奮に湧きたった。ブロードウェイも宇宙通りと名づけられ、人出は４００万人、紙吹雪の量も５千トン以上という熱狂的な新記録。パレードがはじまる数時間前、ニューヨーク国際空港ではアメリカン航空の旅客機が離陸まもなく墜落、日本人乗客３名をはじめ９５名が即死するという惨事があった。市民の多くはグレン中佐歓迎の興奮でこの事故を知らなかったといわれ、宇宙時代の喜びと空の惨事が交錯したニューヨークの表情。

相次ぐ火山の爆発、まかり通るニセ千円札、１億総推理時代を招いた山中湖畔の怪死事件。堀江ヨット青年、１９歳のチャンピオン原田など様々な話題のある中に最も今年を代表するものは交通戦争の激化。車の洪水と悪路がつくり出した交通地獄の中に子供も巻き込まれ、その犠牲者は小児麻痺を上回る激しさ。道路だけでなく海の上も交通ラッシュ。古い港湾施設と野放しの海上交通のため危険がいっぱい。京浜運河のタンカー事故は海上ラッシュの限界を警告した。レールの上も過密ダイヤや無人踏切。三河島事件はこうして起るべくして起きた人災。通勤電車に乗るのも命がけ。道路も、海も、レールも、電車も、すべて交通戦争の場となったこの１年、その対策は来年に持ち越されることになった。

１９６２年１１月３日ヨットレースで遭難した早・慶ヨット部員１０人の捜索は警備艦、巡視船３４隻を動員した大がかりな海上捜索となった。既に発見された２名のうち、早稲田の上田君は変わりはてた姿で故郷に帰ってきた。もう一人の手塚くんの葬儀にかけつけた友達は「なぜヨットになんか乗ったんだ」と涙ながらに呼びかけた。残る８人の遺体を求めて、房総沿岸の捜索本部にはＯＢたちも含め約６０人が集まり、海と岸の二手に分かれ連日、けんめいの捜索が続いた。早風号のスピンブームや遺品らしきものが発見されたが、肝心の遺体はついに見つからず、一週間に渡る捜索は打ち切られた。駆けつけた肉親の姿も痛々しく、死者２名行方不明８名、ヨット部員達は無情の海に帰らぬ友の冥福を祈った。

長野県丸子実業高等学校の野球部は第３４回選抜高校野球の北信越代表に選ばれた。大正１１（１９２２）年の結成以来４０年目にして始めて甲子園の土を踏む。北アルプスおろしの寒風はバットやグローブを凍らすほど。守備練習はキャッチャーなみにプロテクターをつけて猛練習。雪よけのワラでかこったブルペンでのピッチングの練習が行われている。地区大会で４６イニング無失点という快記録をうちたてた坂田投手はこのチームのエース、甲子園での活躍が期待されている。

茨城県東海村の原子力研究所に日本最初の原子の火がともって今年で５年目。第１・２号炉も順調で軌道に乗ってきた。３番目の原子炉として完成が急がれているのは国産第１号炉。燃料は天然ウランを用いるため形も大きくなった。燃料棒を挿入する作業が続けられ、総出力１万ＫＷの原子の火がともることになっている。神奈川県武山の立教大学の研究所。プール形原子炉を輸入し本格的な教育にのりだした。産業界でも原子力の企業化に着手。川崎原子力センターに完成した研究所では、近代科学の粋を集めたコントロールルームで全ての操作が行われるようになっている。今年中に川崎を始め５つの原子炉の火がともることになり、日本で１２の炉が動くことになる。造船界でも原子炉の利用にのり出して、原子力船に取り付ける原子炉が船のゆれに対してどの様に影響するかの研究が行われている。１０年世界に立ち後れた日本の原子力は、今年からいよいよ本格化しようとしている。

サラブレッド４歳馬３２頭が日本一を競う第２９回日本ダービーを迎えた１９６２年５月２７日の東京競馬場。詰めかけたファンは８万５千人、馬券の売上は７億１７００万円とダービー史上最高記録。昼からの雨のため悪コンディションの馬場。レースはカネツセーキがスタートからトップを奪ったが向正面で後退。コレヒサとかわったが、最後の直線に入ってフエアーウインが一気に追い上げそのまま逃げきった。２着は２頭が写真判定で同位、ダービーでは初めての事、ベテラン高橋英夫騎手はダービーに初優勝、またフエアーウインは栄冠とともに７００万円の賞金を獲得した。

日仏親善ラグビー第１戦、フランス学生選抜チームと全慶応の対戦は１９６２年９月１日秩父ラグビー場で初のナイター。縞のジャージをきた慶応のキックオフで始まった試合の前半、慶応は激しい闘志で互角の熱戦を展開、８対６とリード。しかし後半ようやく実力を見せ始めたフランス・チームは素晴らしい攻撃力で慶応に逆転、１９対１３で第１戦を飾った。

にせ札発見者には千円以上をさしあげると懸賞金までついた。あるデパートでは警視庁の専門家を招いて講習会を開いた。しかしニセ札は非常に精巧にできていて、大部分が銀行で発見されるなど捜査の手がかりがつかめない。昨年暮れから出回っているニセ札は最近新たに２種類が加わり１１種１４枚となり、新しいニセ札は東京、茨城、埼玉で集中的に使用されており捜査当局も緊張。地下印刷局を追って非常体制に入った。印刷者のリストも出来上り、２００人という空前の特別捜査班が編成された。ニセ札の使用されやすい競輪場では厳重な張り込みが行われているが全く雲をつかむような捜査でその苦労は並たいていではない。ニセ札に手をやいた大蔵省は１９６２年８月１３日ついに来年から新千円札を発行すると発表。事前に予告するという異例の措置をとった。