那須高原にある通称、小笠原開拓村と呼ばれる大日向村には、戦争中本土に強制疎開させられ、敗戦と同時に故郷を失った人たちが住んでいる。きびしい開拓地の生活に、ある人は村を去り、ある人は常夏の島を夢見ながら命を終えた。もと島の寺であった東京の久遠寺には、せめて故郷に埋めてほしいと死んだ旧島民の遺骨がまつられている。６千人に上る旧島民は、いつかはなつかしい島に帰れると希望を抱きながら馴れぬ都会で苦しい生活を続けてきた。この人たちに初めてアメリカから６百万ドルの補償金が支払われる事になったが、これとひきかえに帰島の望みはしばらく断たれると複雑な表情だ。家を建て、養鶏や畜産を始め、あるいは共同で事業を起こすなど、人々は生活の建て直しを始めた。行く年、来る年、島の踊りや歌に故郷をしのぶ婦人たち。しかしこの人たちの心にある島への思い出は決して消えないのである。

市川海老蔵の１１代目団十郎襲名が決まった。早速、代々信仰する成田不動さんに一門を引き連れ大護摩修業で襲名の奉告を行った。明治３６年以来事実上６０年ぶりに復活する歌舞伎界最高の名跡だけにしきたりも格別。お弟子さんは、連日手分けしてごひいき筋へあいさつまわり。広い層に理解される歌舞伎のため精進したいと決意もかたく披露興行を待つ。新団十郎丈の表情。

東京を美しくする都民大会で、町の美化に尽くした人々の表彰が行われ、東龍太郎東京都知事もオリンピック目指して東京の大掃除に乗り出した。浅草観音の境内には、ハトポッポの歌碑が完成。８５歳の作詞者・東くめさんも参加して盛大な除幕式が行われた。すさみがちな人々の心に安らぎを与えるこの童謡、浅草にまた一つ憩いの場所が出来た。（週間話題）

記録破りの集中豪雨に襲われた長野県伊那谷に１年が巡ってきた。廃墟さながら大鹿村北川地区の住民は家を捨て集団移住することになった。引っ越し資金の不足を嘆いている。大鹿村では悲しみも新たに合同慰霊祭が行われ、全村民が早期復興を誓い合った。しかしこうした願いもよそに復旧工事は遅々として進まない。一瞬にして３６人の生命を奪った大西山の山崩れの土砂の取りかたづけは最近になってやっと着手されたばかり。伊那谷の人々は少しの雨にもおびえながら、１日も早く完全に復興する日を待ちわびている。

大衆小説の創始者として親しまれ、「宮本武蔵」「新平家物語」「私本太平記」など多くの名作を残した吉川英治さんが、肺癌に脳軟化症を併発、１９６２年９月７日朝、７０歳の生涯を閉じた。昭和３５年（１９６０）には文化勲章を贈られるなど貧困の底から筆１本で身を起こした吉川さんは、また人情味豊かな人生の達人でもあった。（週間話題）

自民党の松村謙三氏は行き詰まった日中関係の打開を求めて北京を訪れた。周恩来首相はこれまでにない柔らかな態度で会談に臨み、貿易や文化交流を通しての積み重ね方式で両国間の正常化をはかりたいと述べ、昭和３３年以来断絶していた日中関係に雪解けを迎え、貿易の拡大に大きな期待が寄せられている。（週間話題）

地方遊説のトップを切った社会党の河上丈太郎委員長は、妥協を排して保守党内閣と対決し政権を勝ち取ると高姿勢。一方前回の選挙で惨敗した民社党の西尾末広委員長は、連立政権に参加する用意があると気炎を上げ、党内に波紋を投げた。藤山発言を巡って景気調整の意見が対立していた政府自民党は、経済関係閣僚懇談会で藤山愛一郎長官の主張を大幅に取り入れ、統一見解のもとに参議院選挙に望むことになった。雨降って地固まると、池田勇人首相は東京で全国遊説の第１声をあげた。３党首立会演説会も開かれて、いよいよ参議院選挙の開幕。

サラブレッド４歳馬３２頭が日本一を競う第２９回日本ダービーを迎えた１９６２年５月２７日の東京競馬場。詰めかけたファンは８万５千人、馬券の売上は７億１７００万円とダービー史上最高記録。昼からの雨のため悪コンディションの馬場。レースはカネツセーキがスタートからトップを奪ったが向正面で後退。コレヒサとかわったが、最後の直線に入ってフエアーウインが一気に追い上げそのまま逃げきった。２着は２頭が写真判定で同位、ダービーでは初めての事、ベテラン高橋英夫騎手はダービーに初優勝、またフエアーウインは栄冠とともに７００万円の賞金を獲得した。