春とはいえ雪におおわれた青森県の八甲田山では自衛隊の訓練が行われている。その昔旧陸軍青森連隊の一部隊が吹雪のため全滅した難所も装備と天候に恵まれて進軍も快調。長野市の善光寺はお彼岸の中日１０万石の大名行列をくり出し御開帳の前景気あおっている。お彼岸とあれば犬猫の仏を供養、東京の多摩霊園は奇特な人間達でにぎわった。また、慶応中等部の３３名の生徒は１０日間の米国旅行に出かけることになり、旅費は１人ざっと４０万円、すねをかじられた両親に見送られて１９６１年３月２３日、羽田を出発した。

プロ野球パ・リーグ。われに勝算ありと東映・水原茂監督、早々と日本シリーズのポスターも切符も用意した。大川博社長も必勝の矢を手にネット裏に陣取る。満員の駒沢球場は、リーグ優勝をかけて東映・南海の決戦。日本シリーズの相手や如何にと巨人勢の見守るうちに、鶴岡一人監督ひきいる南海はそつのない攻撃で東映を降し、通算８度目の優勝を飾った。西銀座シリーズの夢破れて、日本選手権は巨人・南海のリバイバル・シリーズとなった。

長野県松代の地震観測所では今日も地味な観測が行われている。粗末な設備のため観測員のなり手がなく欠員がふえる一方。ダムの耐震実験をする電力会社、建物の震動実験をする建築会社、それぞれ地震の被害を防ぐため研究がすすめられている。しかし我々のすむ都会はこうしたすぐれた研究が行われていながら地震に対して決して安全とはいえない。もし東京に大きな地震が起きたら１万７千戸は灰になると予想される。大正１２年の関東大震災では１万３千戸が全壊、２２万戸が灰になり、猛火の下６万人の生命が失われた。あれから３８年、当時にくらべ消火力は発達し防災訓練もたけなわだが、消防車も入れぬほどの狭い路地がいたる所入りくんで、都市消防は赤信号を告げているのが今日のマンモス東京の姿。

華やかに幕をあけた夢の球宴、プロ野球オールスター戦。オールスターの看板男・山内一弘選手は今回は精彩なく、田宮謙次郎選手が攻守にわたる大活躍を見せて今年のオールスター男に選ばれた。

ローマ・オリンピックの王者エチオピアのアベベとワミを迎えて、第１６回毎日マラソンは１９６１年６月２５日４７名が参加して４２．１９５キロの大阪毎日マラソンコースで行われた。日本選手は足元にも及ばずレースは裸足の王者アベベの独走態勢、一時は世界新記録が期待されたが、しかし心ないカミナリ族や道いっぱいの観衆といったコースの混雑が記録に挑むアベベの行く手をさえぎった。悪条件にもめげず独走を続けたアベベは２時間２９分２７秒のタイムでゴールイン、２着はワミ、３着は健闘した内川義高だった。数々の障害のため、期待はずれの記録に終った惜しまれる国際レースだった。

１９６１年３月２９日、第３３回選抜高校野球大会が甲子園で開幕、前年の優勝校・高松商業から優勝旗が返還され、８日間にわたる熱戦の火ぶたが切られた。試合を前に宿舎ではバッティングの仕上げ。いよいよ迎えた試合当日、応援団を始めＰＴＡから先輩まで全校をあげての応援合戦。グランドでは若人が熱と力の決戦を繰り広げ、善戦むなしく敗れたチームは甲子園の土をおみやげに涙をのんで引き上げて行った。

連日の猛暑もものかは、奈良県生駒山麗はカミナリ族でいっぱい。多い日には３千台も集まってジャンプや崖のぼりの技を競ってスリルを求めている。一方うなぎのぼりの暑さに湘南海岸は今年最高の人出、海辺の人混みを避けて沖にこぎ出したボートはたちまち沈没して危ういところを海上パトロールのおまわりさんに救われ冷汗を流す。伊豆の伊東では号令一発たらいの舟にラケットのかい、恒例のたらい乗り競争で涼を求めている。

１９６１年１０月２６日、文部省は全国の中学校の一斉学力テストを行った。教育の国家統制と子ども達の競争心をあおるだけだと反対する日教組。群馬県伊勢崎市ではＰＴＡが校内の要所を固めてテストを始めた。京都の山科中学校では教室を出た生徒が大会を開いてテストをボイコットした。世はあげてテスト時代とあって日曜日の学校を貸しきって有卦に入るのはテスト屋さん。テストに追われる子ども達は日曜日とて遊んでいては競争に負けてしまう。広島は今私塾ブーム、お迎えのバスでやってきた学習塾は入れ替わり立ち代わり大繁盛、蛍の光窓の雪、たのしかるべき子どもの世界も決して楽ではない。