昭和３６年度も６人の文化勲章受賞者と５人の文化功労者が決まった。文化勲章を受ける日本画の堂本印象さん、仏画にまた日本の抽象化に意欲的な活動を続けている。陶芸家の富本憲吉さんは独学で古九谷の味を現代化し気品高い作風で知られ、色絵の焼付には他にならぶ人なき優れた技術をもっている。功労者の異色は柔道の三船久蔵十段、世界の柔道へと６０年の精進が高く評価された。８２才の石原忍博士はトラコーマの研究や色盲検査表で世界的に有名な医者、現在も日課の検査表作りに余念がない。博士の新しい文字の研究は眼科医の経歴を生かした国語改良のライフワーク。現在の日本語では世界に遅れを取るばかりと意気盛んでこの道一筋に生涯の努力を傾け、今なお厳しい学問の道に励んでいる。

東京の自動車の数は去年より１３万台も増え、６３万台を突破して道路は車の洪水。いたるところで車の列が続いている。事故も増え警視庁では、交通情報センターを設け、各交番や交通パトカー、ヘリコプター、まで動員して交通の混雑緩和に乗り出したが、建設中の新道路もなかなかできあがらず、増加する車に道路が伴わないことと、地下鉄や水道など道路工事が多いため効果は現われないようだ。日本の５分の１に及ぶ数の車をかかえた東京の道路対策も根本的なところから手を打たない限り、交通マヒは永遠に解決しそうもない。オリンピックをひかえた東京の悩みは意外に大きいよう。

ＲＨマイナスという珍しい血液型が生んだ悲劇。一人の男の子が心臓手術の結果、愛の献血も空しく手遅れのため死亡した。この死を無駄にしないようにと始まった愛の献血運動には、移動採血車に多くの人々が列を作り、尊い血液を献納した。次いで心臓手術を受けた羽田さんは、全国から寄せられた愛の献血で手術が成功、東京女子医大病院での経過は良好といわれている。

フランス・パリの町外れのゴミ捨て場から拾い集めたガラスの破片をノリで貼り付ける前衛画家ロベール君の作品は、芸術と廃品回収の一石二鳥。ピエール君は頭からすっぽり袋をかぶって無念無想、手探りで絵具を塗りたくる。片や廃品回収、片や手探りと、変わった手法を持つパリの芸術家たち。

第２次世界大戦中６百万に上るユダヤ人の虐殺を指揮した元ナチス親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンの裁判は１９６１年４月１１日、イスラエルの首都エルサレムの公会堂で開かれた。ランダウ裁判長は１５項目にわたる歴史的な起訴状を朗読した。「被告は命令に従ったまででアイヒマン個人に責任はない」と力説するセルヴァティウス弁護人、「世界の良心がこの男の正義の裁きを要求している」と反論するハウスナー検事総長、こうして始まった裁判は組織の個人という難しい問題を巡りながら、ユダヤ人受難の真相を明らかにして行くことだろう。

１９６１年６月２４日から降り始めた雨は、一週間にわたって各地に被害をもたらした。長良川など各河川が増水、津島市はいたるところが水浸し、伊勢湾台風の記憶も生々しい名古屋市の人々はまたも水に追われて、競馬場のスタンドで不安の一夜を明かした。都市計画を誇った名古屋駅前中心街も下水が氾濫して地下街は水浸し、完成したばかりの愛知用水も知多半島の三池トンネルの山崩れで通水式は延期になった。静岡県狩野川では堤防補修工事が完成していたため大きな悲劇を繰り返さずにすんだ。長野県飯田市では堤防が至るところで決壊、死者・行方不明が４０名、下伊那郡大鹿村大河原では山崩れに襲われて１２０名、兵庫県では４１名、横浜でも市内で１９人犠牲者がでた。ずさんな宅地造成が招いた人災に中村梅吉建設大臣は「民間がやる場合もっと厳重な規制を行う」と語った。また起るかもしれない人災に、宅地造成の立法化が強く望まれている。

一発骨をくだくという空手の練習も型を見せるだけではもの足りないと、ある一派が実戦的な練習方法を編み出した。グローブ、すね当てとボクシングまがいのスタイルでリングに登る。近代スポーツに体質改善をはかる古武道空手のニューモード。

嶋中事件に追い打ちをかけるように、大阪で中央公論社の解散を叫ぶ右翼の大会が開かれたり、東京では中央公論社を告訴せよと右翼の一隊が首相官邸に押しかけるなど、このところ右翼は世論の批判に鳴りをひそめるどころか、逆攻勢に出て来たようである。２人のテロ少年を出した大日本愛国党本部には、はるばる九州から上京した１６才の少女が入党し、公然とテロを口にしている。赤尾敏総裁は党員を引き連れ千葉の道場で鍛えているが、この党が右翼テロの特攻基地にならぬよう厳しい監視が必要だ。折も折、埼玉県では日本教職員組合の小林武委員長を狙っていた１７歳の少年が逮捕された。狙われた小林委員長には私服警官が付きっきりで、行く先々護衛に当たる始末。太田薫日本労働組合総評議会議長をはじめ労働組合幹部、文化人にまでテロの黒い影が付きまとう異常な事態になり、言論の府である国会の出入りも厳重を極め議員の安全まで脅かされるに至った。しかし、国民の一人一人が、今こそ毅然たる態度でテロを追放する心構えをはっきりさせなければならない時である。