第２次世界大戦中６百万に上るユダヤ人の虐殺を指揮した元ナチス親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンの裁判は１９６１年４月１１日、イスラエルの首都エルサレムの公会堂で開かれた。ランダウ裁判長は１５項目にわたる歴史的な起訴状を朗読した。「被告は命令に従ったまででアイヒマン個人に責任はない」と力説するセルヴァティウス弁護人、「世界の良心がこの男の正義の裁きを要求している」と反論するハウスナー検事総長、こうして始まった裁判は組織の個人という難しい問題を巡りながら、ユダヤ人受難の真相を明らかにして行くことだろう。

雪の秋田の町を彩って威勢のいいボンデンが太平山三吉神社に向かう。このお祭りは、その昔征夷大将軍坂上田村麿が、蝦夷征伐の勝利を祝った故事に因んだもので、先を争って奉納されるボンデンは、五穀豊穣を祈る雪国の男たちの心意気。今年は色とりどりおよそ３０本のボンデンが、掛け声も勇ましく勇壮な先陣争いを繰り広げた。山形県余目町では安産と無病息災を祈るヤヤ祭り。素っ裸に「ケンダイ」というしめ縄をかたどった腰みのを着け、手に５匁ロウソクを捧げた子供たちが、ミソギを受けて八幡さまにお参りする。この地方に生まれた子は、必ずこの冷たい洗礼を受けるのが古くからの習わしだ。こうして雪国の子供たちは元気に育って行くのである。

都会の盛場にネオンの灯を求めて若い男女が集まって来る。ジャズリズムに青春のはけ口を求めて、夜遅く迄歩き回る彼等、深夜営業の喫茶店は増える一方、こうした場所は一歩踏み間違えると悪の温床となりかねない。ジュースやコーヒーに睡眠薬を入れて飲む睡眠薬遊びが大流行。今年に入って警視庁が睡眠薬遊びで補導した青少年は２百人を越え、強盗、傷害事件を引き起こした数も少なくない。このため警視庁は秋の防犯運動に、青少年の不良化防止を目的とした一斉補導を行なった。たまりかねた母親達は、未成年者に睡眠薬を売らないようにと薬局に協力を求めた。一方喫茶店などを取り締まる風俗営業法を改正して、悪の温床をなくして下さいと、国会を始め関係官庁に陳情した。東京代々木母の会では１０年間町ぐるみで少年犯罪追放を目的に母と子の集いを行って成果を収めている。盛場の悪の誘惑から若い世代を守ろうと夜の町に、ママのパトロールがつづいている。

結核予防法実施１０年目の今年も、無料検診車が街頭に出て早期診断の徹底に一役かった。かつては死亡率第１位だった結核も、今では治る病気。現在の問題は治癒した人々の仕事や生活を支援する施設が少ないことである。結核回復者達の保護施設は全国に十数カ所しかなく、しかも法的な保障が無いため経営は行きづまっている。長い闘病生活からやっと立ち直った人々が社会的に落伍することのないよう、予防から社会復帰まで一貫した対策の確立が望まれている。

日本映画製作者協会の年忘れパーティが今年も開かれ、第６回新人賞の田宮二郎さん、三田佳子、加山雄三さんら６名にブロンズ像が、また「釈迦」の製作スタッフに初の協会賞が贈られた。

ビルマ服を来てウ・ヌー首相の夕食会に招かれた池田勇人首相は「愛染かつら」の歌もとび出ししばし旅情を慰めラングーンの一夜をくつろいだ。懸案の賠償交渉は再び東京会談に持ち越されたが最後の訪問国タイでは６年ぶりに日・タイ間の厚い壁となっていた特別円問題処理の解決を見、これを唯一のおみやげに羽田空港に帰国した。しかしこのおみやげ、野党は強い反対をしており通常国会では激しい攻撃の的になりそう。

鎌倉の街をながすなつかしい乗合馬車、ノスタルジャ号は人々の郷愁をのせてのんびり走っている。交通ラッシュのお江戸を行くかご屋、これは旅館のなみならぬ商魂の現れ。また灯の消えたはずの吉原に現われたおいらんは情緒を売りものにするこれも新商売。迷惑なのか照れるのか引っ張り出されたお客さん、ふと昔を思い出す。江戸に負けるかと大阪では大名かごに奥女中のサービス付きの御殿風な宿がお目見え、リバイバルブームにのった新商売。

１９６１年３月６日から開かれた第２０回社会党大会。右翼に備えたお巡りさんも日向ぼっこなら、自衛団も手持ち無沙汰。問題の構造改革論も論争の末、大会を通過。つづいて役員選挙、和田博雄さんも国際局長として返り咲いた。浅沼さん刺殺以来空席となっていた委員長の椅子についた河上丈太郎さん、江田三郎書記長とのコンビでスタートである。熱心なクリスチャンとして生きて来た河上さんは、右翼テロに襲われた傷もすっかり癒えて、３分の２の壁を破るべく十字架を背負って、険しい道を歩むことになった。