複雑な現代はもはや五線譜では割り切れないと作曲家・一柳慧氏を中心とする前衛グループのリサイタルが開かれた。その場で音の出るものをなんでも使いアクションをまじえ思うがままに演奏する。ちょっとした抽象絵画模様でおたまじゃくしの蔭もない。楽器を壊したり校舎をいためたりするので学校から敬遠された前衛グループは港の空き地に絶好な練習場を見つけた。ガラクタを集めてご気嫌、彼らの合言葉は「五線譜よさようなら」。

このほど皇居吹上御苑に総工費１億７千万円をかけて両陛下の新居が完成した。戦災で焼失して以来１６年間、お文庫で不自由な仮住いを続けられてきた両陛下は大変嬉しそうなご様子。一方義宮さまは１１月２８日、２６歳の誕生日をお迎えになった。生物学者としての道を歩まれる宮さまは目下お妃候補を巡って噂の的、お相手が決まるのもま近いこと。

アフリカで不慮の死を遂げたハマーショルド国連事務総長の国葬が、生まれ故郷スウェーデンのウプサラの寺院で行われた。花で埋まった祭壇の周りにはグスタフ国王始め多数の人が参列して、実行力に富み誠実な人柄で世界の平和につくした故人の冥福を祈った。

１９６１年８月１５日、ミコヤン・ソ連第一副首相がテープを切ってソ連商工業見本市は開かれた。忙しい日程にもかかわらず生活水準を知ろうとデパートへの商品を調べたり美しい花嫁衣装に日本の商品は素晴らしいとおせじも忘れないほど。日本の実情はこの目でと、休む間なく関西へ、大阪ではまずテレビ工場でその技術の高さをほめ、造船所では建設中のソ連貨物船オムスク号を前に日本の造船技術の大きな発展を感ずると満足そうな表情。ミコヤン氏が来日以来初めて日本の美を味わったのは京都の１日、雨の金閣寺でゆっくりとくつろいだ。

この年ソ連はガガーリン少佐をのせた有人宇宙船を打ち上げ、人類の歴史に輝かしい１ページを開いた。１ヶ月おくれて米国はシェパード中佐が弾道飛行に成功。これを背景にウィーンで１年ぶりに東西首脳会談が再開されたが、緊張緩和の期待は裏切られ、東西ベルリンの境界線は封鎖されて国際情勢は日増しに悪化した。更にソ連が５０メガトン級を含む大気圏内の核実験を再開すれば、米国も地下核実験を行い、世界は再び死の灰の恐怖にさらされた。韓国では軍部のクーデターで反共軍事体制が固まり、独立したコンゴではツォンベ一派がルムンバ首相殺害事件を起こして、国連の介入を招いた。またハマーショルド氏の墜落死、ユダヤ人虐殺のアイヒマンに絞首刑の判決が下った。こうした国際危機を背景に、日本では実力者を集めた協力内閣が誕生。池田首相の外交政策はケネディ大統領と意見を交換して日米対等のムードを打ち出した。赤いセールスマンと仇名されたミコヤン氏や韓国の朴議長の来日、東南アジア経済協力の旅など外交の多い年であった。天災では、年の始めに日本海側を襲った大雪は７５年来の最高記録。長野県飯田地方に降った集中豪雨は３２５ミリと２１年ぶりに記録更新して生々しい爪跡を残し、第二室戸台風は風速７４．８メートルで気象庁始まって以来の記録となった。炭鉱災害もあいつぎ福岡県の上清炭鉱では７１人と戦後最大の犠牲者を出した。また今年はダンプカーの事故が続き「走る凶器」と呼ばれるなど不名誉の年となった。犯罪も嶋中邸を襲った少年をはじめとして、不発に終った旧軍人のクーデター、大阪釜ヶ崎の暴動、赤ちゃん誘拐事件、武州鉄道の汚職事件が続いた。また全員無罪を叫び続けていた松川事件の被告たちは１２年ぶりに無罪の判決をうけた。医学界では医師のストライキ、小児マヒの大流行はカナダやソ連から生ワクチンを輸入してしのぎ、ＲＨマイナス型の子供の死亡事故は血液供給制度の検討を促し、愛の献血運動が始まった。経済成長のムードに包まれた日本の経済は、秋風とともに国際収支の赤信号、株価の大暴落となってあらわれ、物価は軒並みはねあがって所得倍増とは反対に消費者にとっては苦しい年となった。

台風４号の余波を受けた三陸地方は、日照り続きで乾ききった山林に大火が続発し、津波のように燃え広がった。青森県八戸の白銀町繁華街は放火のため一夜にして、７百世帯３千５百人が焼け出された。岩手県の田老鉱山も火の海に包まれて、手のほどこしようもなく、２千人の被災者たちは着の身着のままで公民館へ避難した。見渡す限り廃墟と化したヤマの焼跡からミソや米を堀り出して飢えをしのぐ人々に、やっと毛布が届きました。昨年はチリ津波、今年は大火とあいつぐ災害にさいなまれた三陸地方は廃墟の中から暖かい救援の手を待っている。

伊豆下田の黒船祭は駐日アメリカ大使ライシャワー夫妻を招いて盛大に行われた。浴衣がけで夕食会に出席した大使夫妻は、畳に座って日本料理を食べて、やっと日本にきたような気がしたと大喜び。黒船音頭大会に踊りの輪にはいって音頭をとるあっぱれな江戸ッ子大使ぶり。

九州に集団発生した小児マヒは全国に広がり東京足立区大谷田町にも集団発生。親の総出の消毒にもかかわらず、都内で９０人近い患者を出している大谷田町は土地が低く湿地が多いうえに下水が完備してないので病原体の媒介をする蝿などの発生源となっている。予防接種も始まったが、ワクチンが足りないのでお母さんたちは大騒ぎ。もっとどうにかしてほしいと関係方面に陳情に押しかけたが国産のワクチンも生産が間に合わない状態で、厚生省は輸入や生ワクチン使用に踏み切ったが、関係方面の対策の手ぬるさが問題になっている。こうしたさなか、大垣市で小児マヒの子供を持つ母親が行く末を案じてわが子を殺し、自殺を計るという悲劇まで起きた。小児マヒから子供を守る根本的な対策を講じてほしいものだ。