１９６１年８月１５日、ミコヤン・ソ連第一副首相がテープを切ってソ連商工業見本市は開かれた。忙しい日程にもかかわらず生活水準を知ろうとデパートへの商品を調べたり美しい花嫁衣装に日本の商品は素晴らしいとおせじも忘れないほど。日本の実情はこの目でと、休む間なく関西へ、大阪ではまずテレビ工場でその技術の高さをほめ、造船所では建設中のソ連貨物船オムスク号を前に日本の造船技術の大きな発展を感ずると満足そうな表情。ミコヤン氏が来日以来初めて日本の美を味わったのは京都の１日、雨の金閣寺でゆっくりとくつろいだ。

ここは北アルプスの乗鞍岳。氷点下１７度、４ｍの雪に閉ざされたコロナ観測所では、若き学徒たちが日夜太陽の観測に取り組んでいる。新雪を踏んで女子大山岳部の一行がスキー訓練にやって来た。新雪の山肌を縫ってさっそうと初滑り。転び疲れて観測所にたどりつけば、楽しい年越しの祭りが待っている。日頃殺風景な男だけの部屋も、珍しいお客さまを迎えてパッと花が開いたよう。赤々と燃えるストーブを囲んで話に花が咲き始める。外は雪深い厳しい冬の景色である。

インドを訪れた池田勇人首相は聖地ラージガートを参拝、ガンジーの墓に花輪を捧げて冥福を祈った。この度の訪問、最大のヤマはネール首相との会談。両首脳は核実験を中止して世界の緊張を緩和させることで意見が一致した。翌日はデリー郊外のモデル地区を訪問し、村人の歓迎にすっかりご満悦の様子。次の訪問国ビルマの首都ラングーンは仏教の都。一行は寺院シュエダゴン・パゴダに参拝し、池田首相はウ・ヌー首相と会談して懸案の賠償問題について話し合いを進めた。

東京の多摩川ではレジャー時代の先行くモーターボートのカーニバル。大小様々な百台近いモーターボートが華やかにパレードを繰り広げた。埼玉県のジョンソン基地ではカミナリ族のオール・ジャパン。全国から出場した３百台が滑走路でスピードを競った。

長野県松代の地震観測所では今日も地味な観測が行われている。粗末な設備のため観測員のなり手がなく欠員がふえる一方。ダムの耐震実験をする電力会社、建物の震動実験をする建築会社、それぞれ地震の被害を防ぐため研究がすすめられている。しかし我々のすむ都会はこうしたすぐれた研究が行われていながら地震に対して決して安全とはいえない。もし東京に大きな地震が起きたら１万７千戸は灰になると予想される。大正１２年の関東大震災では１万３千戸が全壊、２２万戸が灰になり、猛火の下６万人の生命が失われた。あれから３８年、当時にくらべ消火力は発達し防災訓練もたけなわだが、消防車も入れぬほどの狭い路地がいたる所入りくんで、都市消防は赤信号を告げているのが今日のマンモス東京の姿。

北アルプス連峰は近年にない大雪に包まれて春山は雪崩の危険をはらんでいる。度重なる遭難に備えて、長野県西穂高岳に日本山岳会６０人のアルピニスト達が登山技術の講習にやってきた。生徒２人に先生１人がパーティーを組み、アイゼンの履き方から歩き方まで登山技術の基礎訓練を手とり足とりで個人授業。今年は主に制動確保に重点をおいた。前進を阻まれて露営をしなければならない時の為にテントの経営も習い、又春山の講義も連日行われた。いよいよ迎えた登頂の日は氷点下１７度、冷たい風が吹きまくり、行く手には白銀の壁がそそり立っている。遭難はいつどこで起るかわからない。万全の準備と登山技術が春山には特に必要、自然の厳しさは登山者への戒めである。

残雪に映える北アルプスの立山に１８３人の山岳家を集め、わが国最初の大規模な山岳訓練がくり広げられた。西の峰から聖火が運ばれて、キャンプファイヤーを囲む山男達の歌声が立山連峰にこだまする。剣沢の雪渓では厳しい制動訓練、別山の岩場ではロック・クライミングの高等技術など、新しいリーダーを育てるための激しい訓練が行われた。健全な登山と山の知識を深めるため、アルピニスト達は更に標高３００３ｍの剣岳にいどむ。前年この山で遭難した人の遺体が発見されて仲間によって収容されたが、こうした山の悲劇をなくして日本の山を健全なものにしたい。

医療費値上げ問題をめぐって、厚生省と真向から対立を続ける日本医師会では、１９６１年２月１９日に保安要員を置かない“全国一斉休診”を行なうと指令を出した。武見太郎医師会会長は、前年８月に提出した要求事項に対し、具体的な回答が出されるまで話し合いに応じられないと強硬な態度を示し、一方厚生省側は中央医療協議会に出席しない限り問題は解決出来ないと、どちらも譲らない。日本歯科医師会も足並みをそろえて保険医辞退届を集め、全国一斉休診に踏み切った。この医療ストに国民の不安はつのるばかり、一日も早く話し合いで解決されなければならない医療行政の問題である。