第１次越冬隊と一緒に南極に渡ったカラフト犬タローが５年ぶりに帰ってきた。生後１０ヵ月で日本を旅立ったタローは、無人の昭和基地で奇跡的に生き続けていた。５歳の老犬となったタローの姿に風雪に耐えた王者の貫禄充分。育ての親、北大の犬飼哲夫教授と対面したタローは今後の落着先の北大へ送られて行った。

１９６１年５月２８日、東京競馬場。第２８回日本ダービーに集まった競馬ファンは９万人という空前の新記録。馬券売り場は一獲千金の夢を見る人の波で大盛況。総売上高も５億７千４百万円という新記録を出した。出走馬は３２頭、本命のないのが今年の特長である。２４００ｍの距離を各馬競り合いの難しいレースを展開。写真判定の結果ハクシヨウが鼻の差でメジロオーを押え２分３０秒２の新記録で優勝。賞金７百万円を獲得した。大金をふところにした人、一瞬にして夢破れた人、悲喜こもごも人と馬のかけくらべだった。

早場米の産地、千葉県の水郷地帯は今稲刈りの真っ最中。ずっしりと重く垂れた稲穂が７年続きの豊作を約束して、農村は明るい表情。しかし新潟県南蒲原郡の中之島村周辺は、８月に入って３度も重なった水禍に稲穂は痛めつけられて収穫は絶望とみられてる。去年までは、日本一の米どころとして他県から大勢の季節労務者を雇うほどのこの地方も今年は収穫をあきらめて口べらしのため出稼ぎに行くよりほかない。７年続きの豊作の蔭に取り残された米どころの表情。

新学期の春、長野県諏訪市に芸者学校ができた。入学式をすませると、さっそく踊りの稽古を始めたが、この頃は社交ダンスの方が人気があるようだ。芸者には負けずと東京のチャーミング・スクールは美人づくりにあの手この手で美容体操を教えているが、女性の魅力倍増もなかなか難しいようだ。ある証券会社では重役候補を集めて幹部学校の入学式が行われた。実習で重役のイスに座り、座りごこちはまんざらでもないが、茶の湯やゴルフなどの重役修業はなかなか難しく、重役になる道も思うようには行かないようだ。

嶋中事件に追い打ちをかけるように、大阪で中央公論社の解散を叫ぶ右翼の大会が開かれたり、東京では中央公論社を告訴せよと右翼の一隊が首相官邸に押しかけるなど、このところ右翼は世論の批判に鳴りをひそめるどころか、逆攻勢に出て来たようである。２人のテロ少年を出した大日本愛国党本部には、はるばる九州から上京した１６才の少女が入党し、公然とテロを口にしている。赤尾敏総裁は党員を引き連れ千葉の道場で鍛えているが、この党が右翼テロの特攻基地にならぬよう厳しい監視が必要だ。折も折、埼玉県では日本教職員組合の小林武委員長を狙っていた１７歳の少年が逮捕された。狙われた小林委員長には私服警官が付きっきりで、行く先々護衛に当たる始末。太田薫日本労働組合総評議会議長をはじめ労働組合幹部、文化人にまでテロの黒い影が付きまとう異常な事態になり、言論の府である国会の出入りも厳重を極め議員の安全まで脅かされるに至った。しかし、国民の一人一人が、今こそ毅然たる態度でテロを追放する心構えをはっきりさせなければならない時である。

パリで開かれた第３回世界柔道選手権大会は、予想通り日本とオランダの優勝争いとなった。決勝戦は準々決勝で神永昭夫５段、準決勝では古賀武４段を破ったヘーシンク５段と日本最後の切札曽根康治６段との対戦、連続的な速攻と巨体を利用した戦法には前チャンピオンの曽根も歯がたたない。ついにけさ固め決って、ヘーシンク優勝、柔道日本の王座は崩れさった、寝技の研究不足が敗因といわれ日本柔道会に手痛いショックを与えた。講道館には第２第３のヘーシンクをめざす青い目の三四郎がめっきり増えた。柔道は今や国際的スポーツ、体の小さいものが大きいものを倒した柔道の極意も、キングサイズの外人相手では体力の養成と新しい技の研究が必要。このままだと東京オリンピックの金メダルもあやしくなった。

うんざりする暑さでビヤホールは超満員、おかげでビールが売れて品不足、お得意様に断るのに一苦労。電気冷蔵庫に押され気味の大阪の製氷業者が知恵を絞って考え出したのは氷の器。水晶のように美しい氷の器は真夏でも３時間は大丈夫、涼味百パーセントの新商売。丑の日を迎え、鰻の注文が殺到する浜名湖のうなぎ養殖場、全国の８割を占めるここでは、てんてこまいの忙しさ。この年は前年より２百トンも多い出荷が見込まれ、うなぎ上りの景気の良さ。しかし、背中をさかれて串に刺される哀れ蒲焼きの運命、うなぎにとってはとんだ危日だ。

１９６１年１１月１日は自衛隊記念日。国産新兵器も登場して明治神宮外苑広場に１１年目の偉容を繰り広げた。負けずと劣らず勇ましいのは、これも戦後会員２２０万人の一大勢力にのし上がった創価学会の精悦青年部の総会。号令一下、全国から集まった青年その数十万。国立競技場に展開する。組織力は目を見るばかり。意気はますます盛んな２つの勢力。