１９５８年も文化勲章（第１８回）、文化功労者（第８回）の栄誉が贈られることになり、日本画の松林桂月さん、８１歳の歌人・窪田空穂さん、バイオリンの演奏技術を育てた安藤幸さん、長崎の平和祈念像で有名な北村西望さんら、１０人の人々が受けることになった。この人たちは、たゆまぬ努力によって文化を育ててゆこうとしているのである。【文化勲章受章・文化功労者】松林桂月（日本画）、北村西望（彫塑）、野副鉄男（有機科学）、近藤平三郎（薬学・薬化学）【文化功労者】窪田空穂（短歌）、安藤幸（洋楽）、高橋里美（哲学）、鈴木虎雄（中国文学）、亀山直人（応用化学）、和田三造（洋画）

１９５８年１１月１２日、東京港日の出桟橋で、南極観測船「宗谷」の出港式が行われ、今度こそは昭和基地に越冬隊を残そうと固い決意を見せた。「宗谷」は三たび南極大陸を目指して壮途についたのである。（週間話題）

春闘の賃上げ相場が決まるといわれる私鉄争議は、１９５８年３月２７日には昭和２７年（１９５２年）以来６年ぶりの、平日２４時間ストが行われるという深刻な事態に発展し、このため各地で交通が混乱、トラックを回して社員を運ぶ会社も出るありさまであった。（週間話題）

鳥海山を臨む実り豊かな庄内平野には、日本一の大地主といわれた本間さまが終戦まで君臨していた。しかし、農地改革で約２千町歩（約１９８３ヘクタール）の小作地を失ったため、かつて２万石（３千トン）の小作米を納めた倉庫は今は昔の姿もなく、本間家三代目の当主光丘の神社が、昔の名残を留めている。本間家に代々伝わる大福帳は貴重な研究資料として利用され、旧本邸は公民館に、豪華な旧別邸は美術館（本間美術館）となりかわっている。農地改革以後、一度傾いた本間家は商人に生まれ変わり、今では肥料や農薬で年間数億円も売り上げるほかに、タクシー会社やら、製材所やら、数多くの企業経営に乗り出している。お盆には、本間家の昔の盃をおしいただく農民の姿も見られる。本間一族は打ち揃って先祖代々のお墓に参り、お家安泰を祈った。豊年満作を祝う盆踊りには、本間さまも人々に混じって踊る。戦後１３年、商人として復活した旧大地主さまの姿である。

夜明けと共に、凍りつくような東京湾では、今日も忙しい海苔の採取が始まっている。１９５８年は海苔の当り年で、一冬の稼ぎ高は、一戸当りおよそ５０万円という嬉しい豊作景気である。しかし、この海苔場も、大都会の拡張の犠牲となって、埋め立てられて行くのにたまりかねた千葉県長浦の漁民たちは、４００艘の船を連ねて海上デモを行った。憎い干拓工事の役人に仕立てた藁人形をめがけて水鉄砲の集中攻撃、とんだ源平合戦の一日であった。

“お年寄りの日”の１９５８年９月１５日、養老院には寿司屋さんや芸者さんが訪れ、心のこもったサービスで老人たちを慰めた。空の東京見物に招待された老人たちは、初めて乗った飛行機で大喜びである。東京都の多摩養老院では目出度い結婚式。７３歳の花婿さんと６６歳の花嫁さんが、仲間の老人たちに祝福されて新しい人生の門出を迎えた。

せち辛い浮世の風が身に染みる夜の街。街頭の易者の前には客の姿が絶えない。今をはやりの易者学校では、生徒さんたちがゼイ竹の練習に一生懸命。将来を占って大いに世に出ようとの胸算用である。解散近しと易者のところに駆けつけた代議士の秘書もある。中国渡来のフウチ占いは、無念無想で棒を握れば、自然に運勢が現われるというものである。奇妙な動作で神通力をふるうのは宇宙神学の教祖さん。だが悩める信者は真剣そのものである。東京都のある宗教本部は、大半が中年婦人の信者たちで大繁盛。お題目を夢中で唱えれば日頃の悩みも忘れて、ついには神がかりの陶酔境。迷いはなかなか消えそうもない。

昔も今も変わらぬものは文士さんの芝居熱。１９５８年も市川猿之助（２世：猿翁）さんの指導の下に、顔見世文士歌舞伎の舞台稽古が始まった。久保田万太郎さんも入れ歯がはずれるほどの大熱演。「源氏店」（「与話情浮名横櫛」の一場面）では、川口松太郎与三郎と舟橋聖一お富さんが、息の合った名コンビぶりを見せている。こうしていよいよ公演の日。舞台では石原慎太郎さんの助六に、三島由紀夫さんの髭の意休という当代随一の顔合せで「助六由縁江戸桜」吉例文士歌舞伎の一コマである。