１１月１日は自衛隊記念日。１９５８年１１月１日も神宮外苑では岸信介首相の観閲式が行われた。一方この日全国の基地のある町では、核兵器反対・基地反対の共同行進デーとあって、基地に向かってデモ行進を展開。相反する二つの行進が始った。自衛隊では、誘導弾エリコンを公開したり、「タンク」で子供たちのご機嫌をうかがったり、物分かりの良い文化人を一日入隊に誘い出すなど、このところＰＲ戦にもこれ努めている。浜松基地では、山下清画伯を招いて、一日指令官に祭り上げた。にわか少将になって得意満面の山下さんは、自慢のスケッチでたちまち隊員の人気を集める。「自衛隊は外国から国を守るほかに、国の中の戦争に備えるんだな」と鋭い質問を放った山下さん。そのあと「ぐれん隊や強盗との戦争だな」とつけ加えたため、従卒が「それは警察の役目ではないでしょうか」と訂正する次第となった。

１９５８年４月９日、解散風の吹く国会で、一万田尚登蔵相の不信任案が提出された。しかし、問題の斡旋収賄罪と暴力取締法は、与野党が妥協して法務委員会であっさり可決。ところが１０日の大蔵委員会で、社会党の横銭重吉議員が『千葉銀行の不正融資問題に関連して政府与党幹部に疑惑がある』との爆弾発言を行ったところから議場は紛糾、一波乱起きそうな形勢となった。しかし国会の駆け引きもさることながら、気になるのは選挙のこと。自民党の河野一郎さんが地方の演説会へ出かければ、社会党の鈴木茂三郎さんは基地反対を続ける村へ。政界はもう選挙戦に明け暮れている。

１９５８年２月３日の衆議院本会議は、社会党提出の「解散要求決議案」をめぐって一波乱。採決の結果を発表する事務総長が、反対と賛成の票数をあべこべに読んでしまったためである。さすがの益谷秀次議長もあわを食っている。万歳を叫んで社会党が引き上げたあと、与党だけで報告をやり直して、危ないところでやっとけりを着けた。

冷たい六甲颪（おろし）を真下に受けて、灘ではいま丹波の杜氏たちが、新酒の仕込みに追われている。戦場のように忙しい酒蔵では、甑（こしき）の中で蒸された白米が次々と一斗入りの小桶に移されて、床一面に敷いたむしろの上に広げられていく。ひねり餅を調べる杜氏の真剣な目付。やがて酒蔵の中から威勢のいい酒母つき歌が流れて来る。難しい温度の調整。氷で冷やしたり、熱湯で温めたり、蔵人たちの不眠不休の毎日が続く。蔵人たちの食事が始まるのは真夜中の２時。杜氏を頭に一汁一菜の厳しい躾だ。昔ながらの酒造り、古い酒蔵の立ち並ぶ、忙しい灘の今日この頃である。

１９５８年２月８日、フランス空軍はアルジェリア国境に近いチュニジアのサキエト・シジ・ユーセフ地区に７回にわたる爆撃を加え、そのほとんどを破壊し、１５０名以上の死傷者を出した。このためチュニジア各地で国民の怒りが爆発し、紛争は国際問題に発展して全世界の注目を集めている。

日韓両国の相互釈放協定に基づいて、１９５８年１月１９日、長崎県の大村収容所から第１次国内釈放の韓国人６９名が出所した。複雑な問題を残して始まった相互釈放の第一陣である。（週間話題）

プロ野球。１９５８年１０月２４日、セントルイス・カージナルスと全日本チームの第１戦が行われた。この日期待のミュージアル選手は本調子が出ず振るわなかったが、全日本の長嶋茂雄はマイゼル投手からホームランを打って、大リーガーのお株を奪う活躍ぶり。しかし好守備を誇るカージナルスが、全日本を５対２で押えて来日第１戦を飾った。（スポーツ）

昔も今も変わらぬものは文士さんの芝居熱。１９５８年も市川猿之助（２世：猿翁）さんの指導の下に、顔見世文士歌舞伎の舞台稽古が始まった。久保田万太郎さんも入れ歯がはずれるほどの大熱演。「源氏店」（「与話情浮名横櫛」の一場面）では、川口松太郎与三郎と舟橋聖一お富さんが、息の合った名コンビぶりを見せている。こうしていよいよ公演の日。舞台では石原慎太郎さんの助六に、三島由紀夫さんの髭の意休という当代随一の顔合せで「助六由縁江戸桜」吉例文士歌舞伎の一コマである。