１９５８年３月２日東京のある道場に、南朝の正統を唱える熊沢天皇（熊沢寛道）が座を構え、クサリガマ（鎖鎌）など古い武芸の「御前試合」が行われた。次いで『天皇』みずから立ち合い、卜伝流ナベブタ（鍋蓋）の極意を演じれば、打ち込む木太刀も難なく押さえられてしまう。“達人”熊沢天皇のよき一日であった。（週間話題）

台湾海峡に浮かぶ金門島をめぐる二つの中国（中華人民共和国と中華民国）の攻防戦は、日毎に激しさを増している。砲声の合間をぬって派手な宣伝戦も行なわれているが、米国艦隊の出動も伝えられ、アジアに暗い影を投げかけている。（週間話題）

せち辛い浮世の風が身に染みる夜の街。街頭の易者の前には客の姿が絶えない。今をはやりの易者学校では、生徒さんたちがゼイ竹の練習に一生懸命。将来を占って大いに世に出ようとの胸算用である。解散近しと易者のところに駆けつけた代議士の秘書もある。中国渡来のフウチ占いは、無念無想で棒を握れば、自然に運勢が現われるというものである。奇妙な動作で神通力をふるうのは宇宙神学の教祖さん。だが悩める信者は真剣そのものである。東京都のある宗教本部は、大半が中年婦人の信者たちで大繁盛。お題目を夢中で唱えれば日頃の悩みも忘れて、ついには神がかりの陶酔境。迷いはなかなか消えそうもない。

１９５８年２月２２日のまだ宵の口、アメリカ兵の２人組強盗が、銀座の洋酒店を襲った。しかし騒がれて何も奪らず逃走。犯人の一人は間もなく捕まったが、ピストルを持った他の１人が満員の映画館に逃げ込んだとの知らせに、有楽町は時ならぬ騒ぎである。映画のはねるのを待って、劇場内をくまなく捜したが、何の手がかりも発見できない。だが翌朝、片われのドナルド・クリームショー二等兵も羽田基地で逮捕された。幸い被害は無かったものの人騒がせな出来事であった。

屋内スキー場も開店して、東京都内ではもう冬山シーズンの訪れである。アイス・クラッシャーから降る雪を潜って、気の早いスキーヤーたちが初滑りの味を楽しんでいる。一方、富士山は１千名の登山客を迎えてこの冬初めての大賑わい、冬山登山の講習会も開かれている。（週間話題）

名人と言われた三遊亭円朝の墓のある東京谷中の全生庵。ここでは毎年お盆になると、本堂の壁一面に円朝が集めた幽霊の掛軸を並べて、その霊を弔う慣わしである。その中には円山応挙が、病気の奥さんをモデルにしたという幽霊の絵もある。心霊科学を研究している板谷樹教授は、実物の幽霊を撮ったという写真を集めている。幽霊に足の無いのは東も西も同じである。われわれにお馴染みなのは納涼大会のお化けである。このお化けはアルバイトの学生に操られている。あるキャバレーでは幽霊を客寄せに使っている。怪談ばなしの師匠の家では「四谷怪談」のお稽古が行われている。夏の夜に拾った街の話題である。

１９５８年１２月６日、フィリピンのガルシア大統領夫妻を迎えて、皇居ではイブニングパーティーが催され、国会では歓迎会が開かれた。歓迎会の席上、大統領は今こそ両国間に新しい平和と親善の道を開く必要があると強調、満場の拍手を浴びた。その後、岸信介首相と会見、日比両国の友好と協力を置土産に、６日間にわたる日本訪問の旅を終った。（週間話題）

第３回アジア競技大会は、１９５８年５月２８日から待望の水上競技がはじまり、男子４００ｍメドレーでは長谷景治、古川勝、石本隆、古賀学の日本チームが、４分１７秒２の世界新記録を、男子４００ｍ自由形決勝では、期待の山中毅が、４分２３秒９の世界新記録を樹立するなど、水上日本の力を示した。一方、陸上の華マラソンは、真夏を思わせる暑さの中で苦しいレースとなったが、健闘した韓国の李昌薫が優勝、日本の貞永信義は３着に終わった。ホッケーの優勝戦は、世界一、二を争うインドとパキスタンが対戦、両軍無得点で引き分けたが、失点無しのパキスタンが優勝と決まり、３０年間無敗を誇ったインドはその王座を譲った。こうして数々の成果をおさめたスポーツの祭典は、６月１日、国立競技場で閉会式が行われ、友情に結ばれたアジアの若人たちは、限りない前進を誓い合いながら、「別れの曲」に送られて去って行った。