鳥海山を臨む実り豊かな庄内平野には、日本一の大地主といわれた本間さまが終戦まで君臨していた。しかし、農地改革で約２千町歩（約１９８３ヘクタール）の小作地を失ったため、かつて２万石（３千トン）の小作米を納めた倉庫は今は昔の姿もなく、本間家三代目の当主光丘の神社が、昔の名残を留めている。本間家に代々伝わる大福帳は貴重な研究資料として利用され、旧本邸は公民館に、豪華な旧別邸は美術館（本間美術館）となりかわっている。農地改革以後、一度傾いた本間家は商人に生まれ変わり、今では肥料や農薬で年間数億円も売り上げるほかに、タクシー会社やら、製材所やら、数多くの企業経営に乗り出している。お盆には、本間家の昔の盃をおしいただく農民の姿も見られる。本間一族は打ち揃って先祖代々のお墓に参り、お家安泰を祈った。豊年満作を祝う盆踊りには、本間さまも人々に混じって踊る。戦後１３年、商人として復活した旧大地主さまの姿である。

１９５８年２月１日の午後４時過ぎ、東京宝塚劇場で「アイヌの恋歌」を上演中、舞台付近から出火、火はみるみる燃え広がり劇場の大半を焼き尽くした。煙に巻かれて逃げ遅れた踊り子と２人の子役が死亡、１０数人の重軽傷者を出して午後５時４５分鎮火したが、舞台で使った本物の火が原因のようである。

１９５８年９月１５日の勤務評定反対統一行動を前にして、東京都教組（東京都教職員組合）・長谷川正三委員長が講演。９月４日、警視庁は日教組（日本教職員組合）の小林武委員長を逮捕。この春行われた先生のストライキについて取り調べた。組合は警視総監に抗議。勤務評定反対を叫び夜の銀座に無届けデモを行なう高校生たち。９月６日から御茶ノ水女子大で開かれる道徳教育講習会も日教組に入り口を塞がれ、文部省は会場を変更、上野の国立博物館にバスで移動。道徳教育講習会では相応しくない状態で行なわれた。

洪水に洗われた伊豆、狩野川流域には、今日も遺体を焼く悲しい煙が立ち昇っている。孤立した修善寺町には、やっと渡し舟で連絡出来るようになったが、自衛隊員たちは橋の架設のために濁流と闘い、学生たちは復旧作業に献身している。１９５８年１０月５日、ヘリコプターで現地を視察した岸信介首相に、被災者たちは、切々と救援を訴えた。救援の食糧として薯の配給を受けて、心から喜んでいるこれらの人たちに、もっと力強い援助の手をさしのべたいものである。

千葉市の郊外にある大巌寺は、川鵜が群生しているので有名である。口移しでエサをやる川鵜の親と子、空き巣を狙って卵を失敬するカラス、ヨチヨチと危ない足どりで成長してゆく白サギの雛など、これらの鳥たちは、大自然の中でそれぞれの生きる道を見出して巣立つのである。

アジア競技大会に備えて、神宮外苑に建設を急いでいた国立競技場は、７万人を収容する世界水準をゆく大競技場として完成、１９５８年３月３０日、晴れやかに完工式が行われた。聖火台に火がともされ、新装のアンツーカートラックから、この日の最後を飾るマラソンの最終選考レースが出発、激戦の末、１着の貞永信義と２着の浜村秀雄が代表に決まった。こうして５月２４日から始まるアジア競技大会は、開幕を待つばかりとなった。

男子テニス国別対抗戦・デビスカップの東洋ゾーン、日本とタイの第１回戦が、１９５８年３月２８日東京の田園コロシアムで開かれ、第１日のシングルスでは加茂公成がスティラパンを、石黒修がアネックを破って２勝。次いで日本は第２日のダブルスにも勝って第１戦をものにし、準決勝に進んでフィリピンと対戦することになった。

１９５８年も文化勲章（第１８回）、文化功労者（第８回）の栄誉が贈られることになり、日本画の松林桂月さん、８１歳の歌人・窪田空穂さん、バイオリンの演奏技術を育てた安藤幸さん、長崎の平和祈念像で有名な北村西望さんら、１０人の人々が受けることになった。この人たちは、たゆまぬ努力によって文化を育ててゆこうとしているのである。【文化勲章受章・文化功労者】松林桂月（日本画）、北村西望（彫塑）、野副鉄男（有機科学）、近藤平三郎（薬学・薬化学）【文化功労者】窪田空穂（短歌）、安藤幸（洋楽）、高橋里美（哲学）、鈴木虎雄（中国文学）、亀山直人（応用化学）、和田三造（洋画）