安政元年（１８５４年）黒船の来航以来、わが国海の玄関として、文明開化の先端を切ったミナト・ヨコハマ（安政６年、１８５９年開港）は、その後大正・昭和にわたって関東大震災や空襲など、歴史の激しい浮き沈みの中に百年目の今日を迎えた。１９５８年５月１０日から盛大に催された開港百年祭では、ペリー提督や井伊直弼大老を表彰したり、地元出身の人気歌手をかり出して景気挽回に大童。目抜き通りでも、国際色豊かに趣向をにらした仮装行列を繰り広げ、夢よもう一度と街を練り歩いた。

日蓮宗総本山の身延山久遠寺に、大映スター・長谷川一夫さんが姿をみせた。長谷川さんは、映画「日蓮と蒙古大襲来」の日蓮上人に扮することになった。白装束に身を改め、清めの水行、３００畳の大本堂で朝のお勤めが始まる。大事な台本をお香で清めて大願成就を祈り、断髪式でハサミが入れられ、由緒ある数珠をいただき、長谷川さんは決意を固めた。

１９５８年７月２３日朝、静岡県御前崎に上陸した台風１１号は、最大風速３５ｍ、激しい豪雨を伴って関東一帯に猛威をふるい、全く不意をつかれた東京では、交通機関のほとんどがマヒ状態に陥った。とくに地面の低い江東地区では、中川の堤防が３０ｍにわたって決壊し、折からの満潮とかさなって、付近一帯は瞬く間に水浸しとなった。浸水家屋３万戸、被災者５万人。昭和２４年（１９４９年）の「キティ台風（８月３１日）」以来９年ぶりの風水害である。

長野市は古くから花火作りの盛んな所。町はずれの仕事場では、昔ながらの方法で花火が作られている。花模様を描き出す火薬の詰め込みに精根をかたむける青木さんは、この道に入って５０年。今、親子で最後の仕上げを急いでいる。自慢の作品に次々と名前が付けられていき、出来上がった花火は箱に納められ、重い尺玉は大切に運ばれる。１９５８年もまた７０万人の人を集めて、両国の川開きが華やかに開かれた。夏の夜空を彩る七色の花火。この一瞬に全てを賭ける花火師の檜舞台である。

臨時国会冒頭、社会党の浅沼稲次郎書記長は日米安全保障条約改定問題で激しく政府を追及。一方、ダレス長官との会談を終えて、自民党の帰国歓迎会に臨んだ藤山愛一郎外相は、党内での風当りも強く『保守党のためになるような安保条約改定をしたいからご支援を願う』と懸命である。こうした中で、１９５８年１０月４日、安保条約は締結後８年目に岸信介、藤山、マッカーサー大使の間で改定交渉に入った。自民党代議士会では反主流派がここぞと藤山外交をを攻撃。この分ではまず党内の安全保障が必要のようである。藤山外交が独り立ちできる日はいつのことであろうか。

昔も今も変わらぬものは文士さんの芝居熱。１９５８年も市川猿之助（２世：猿翁）さんの指導の下に、顔見世文士歌舞伎の舞台稽古が始まった。久保田万太郎さんも入れ歯がはずれるほどの大熱演。「源氏店」（「与話情浮名横櫛」の一場面）では、川口松太郎与三郎と舟橋聖一お富さんが、息の合った名コンビぶりを見せている。こうしていよいよ公演の日。舞台では石原慎太郎さんの助六に、三島由紀夫さんの髭の意休という当代随一の顔合せで「助六由縁江戸桜」吉例文士歌舞伎の一コマである。

夏休みも間近。東京都では、「勤務評定」反対で一斉休暇を行なった先生たちに対して大量の処分を発表、先生たちは、そんなものは受け取れないと一括返上したため、処分書が机上で戸惑っている。学生たちにはアルバイトの季節。船から船へと、女子高校生のグループは粋なマドロスさん相手にアイスキャンデー売りである。男の学生はぬらりくらりと逃げるウナギづかみに汗だくである。小学生や中学生はうれしい臨海学校。この夏を先生も生徒も、まちがいの無いよう楽しく過ごして欲しいものである。

１９５８年４月２５日、衆議院はついに解散、保守・革新二大政党下初の総選挙の幕が切って落とされた。前代議士たちは「永田町で逢いましょう」と合言葉を交わし公認証書や軍資金を手に、思い思い選挙区へ散って行った。２８日、両党党首立会演説会では、鈴木茂三郎、岸信介の御両人は幕開きからクジ引きで先陣争いをするなど闘志を見せ、メーキャップも念入りに、ジェスチャーたっぷりの対決を演じた。