１１月１日は自衛隊記念日。１９５８年１１月１日も神宮外苑では岸信介首相の観閲式が行われた。一方この日全国の基地のある町では、核兵器反対・基地反対の共同行進デーとあって、基地に向かってデモ行進を展開。相反する二つの行進が始った。自衛隊では、誘導弾エリコンを公開したり、「タンク」で子供たちのご機嫌をうかがったり、物分かりの良い文化人を一日入隊に誘い出すなど、このところＰＲ戦にもこれ努めている。浜松基地では、山下清画伯を招いて、一日指令官に祭り上げた。にわか少将になって得意満面の山下さんは、自慢のスケッチでたちまち隊員の人気を集める。「自衛隊は外国から国を守るほかに、国の中の戦争に備えるんだな」と鋭い質問を放った山下さん。そのあと「ぐれん隊や強盗との戦争だな」とつけ加えたため、従卒が「それは警察の役目ではないでしょうか」と訂正する次第となった。

問題の警官職務法（警察官職務執行法）は国内の世論に激しい渦を巻き起している。女子学生が改正反対の署名運動に立ち上がれば、日本学術会議も、法案の慎重な取扱いを政府に要望する旨を決定した。１９５８年１０月２５日、６６の団体で組織された警職法改悪反対国民会議は、各地で第一波の統一行動を開始、すでに最大限の実力行使を決定した総評（日本労働組合総評議会）と共に、強く法案撤回を政府に迫っている。こうした動きに対し、２７日、政府は声明を発表、労組（労働組合）の行動に警告を発すると同時に法案成立への強い意志を表明した。このように益々溝を深める国内の対立を背景に、第１回の自民、社会両党の立会演説会が開かれたが、ここでも意見は平行線をたどるばかり、１日も早く政治に良識が立ち戻って欲しいものである。

北アルプスの剣岳（剱岳）を目指して、雪渓を登っていく法政大学山岳部の一行２４人。ザイルワークも慎重に岩場に挑み、吹き捲る風と闘いながら山頂を目指すクライマーたち。高度の技術を要するチムニー（岸壁に縦に走っている、身体が入る程度の割れ目）も征服し、努力とチームワークで極めた山頂からの眺めはまたひとしお。夏山は若人にとって忘れることのできない醍醐味である。

日本では下火になったフラ・フープもポーランドでは今が大流行。ワルシャワの体操クラブでは、必須課目の一つになるほど人気を呼んでいる。飛び入りも現れ、カメラマンもつい浮かれてクルクルと賑やかなポーランドのお正月である。

１９５８年８月１４日午後２時３分、山陽本線岩国駅付近の踏切で、特急「かもめ」が米軍トレーラーと衝突、５３名の負傷者を出した。２日前の１２日の夜には、羽田発名古屋行きの全日本空輸機（ダグラスＤＣ‐３型）が、３３名（乗客３０名、乗員３名）を乗せて消息を絶った。大規模な捜索の後、１３日に伊豆大島西南方で機体の破片と遭難者の死体が発見され、夕刻までに収容された１５の遺体が、悲しみに打ちひしがれた遺族の前に横たえられた。１６日開かれた衆議院運輸委員会で、永野護運輸大臣はひたすら謝罪するばかり、その後、捜査陣の努力も空しく、残る１８名の遺体の発見は絶望視されるに至った。海辺に立ちつくす遺族の姿が、事故の悲惨さを訴えている。

代々木警察署の刑事を射殺した２１歳の犯人が、１９５８年３月４日夜逮捕された。血生臭い無分別ぶりをさらけ出した事件であった。ところで、高校卒業生にとって３月は受験シーズン。大学の試験場には切羽詰まった風景がみられる。春の高原にクラブを振るう大学生、腕も度胸もすでに重役クラスである。さて、近頃にわかに人気の出たロカビリーと呼ばれる音楽は、激しいリズムと刺激的な演奏で、すっかり１０代の心を捉えている。コートが投げられ下着まで飛び出し、なかにはステージに這い上がる女の子まで出る騒ぎ。文部大臣に一目見せたい光景である。ともかく若い世代の舞台は大きく回ろうとしている。

１９５８年１月２６日、本州を通過した低気圧のため各地に船の遭難が続出。強風下小松島を出航した「南海丸」は、１６０数人を乗せたまま淡路島南方海上で消息を絶った。和歌山港には心配した家族が駆けつけ、海上では全力をあげて捜索が続けられたが、１人の漂流者も発見することができず、全員絶望とみられるに至った。異例の突風による事故とはいえ、海運関係者の深い反省が望まれている。

１９５８年６月１０日招集された特別国会は、冒頭から、国会の役員をすべて独占しようとする自民党と、これに反対する社会党との話し合いがつかず、衆議院議長の選挙を手始めに、１６の常任委員長のイスをめぐって、２日がかりで延べ１０時間以上にわたる堂々めぐりを繰り返し、岸信介首相の指名を終わったのは、１２日の夕方という意地と根気の張り合いであった。しかし、これに対して組閣は電光石火、佐藤栄作氏の大蔵大臣をはじめ、重要ポストのほとんどは岸・佐藤派など主流派で固め、池田勇人氏を無任所大臣にまつりあげた、いわゆる「岸兄弟内閣」が成立した。評論家の大宅壮一さんは「国と言う大事業を入札で請負った同族会社みたいな感じだ」といっているが、岸さんは「ホトトギスの鳴く音も見よう聞きよう」と、派閥人事との批判も素知らぬ顔。ホトトギスの鳴く箱根山中で、今ひと休みといったところである。