ベネチア派最大の巨匠ティツィアーノ。１６世紀に描いた縦７メートルの、サンタ・マリア・ディ・フラーリ教会の祭壇画「聖母被昇天」は、誰も真似のできない魔法の赤色を使いベネチア画壇に君臨した。商才にも長け貴族にも列し、富と名声をほしいままにした。しかし、水の都もペストの猛威で町は力を失い、衰退に追いやられる。現在は水の浸食で危機に直面しており、人類の遺産である大祭壇は未来にいかにして受け継がれるのか、危ぶまれている。◆ティツィアーノ（１４９０？～１５７６）「聖母被昇天」１５１６－１８、「カール五世の騎馬像」１５４８、「サピエンツァ」１５６０、「ピエタ」１５７０－７６

水害に襲われた故郷・奈良県十津川村を離れ、２６００人が北海道へ集団移住したという歴史的事実をもとに、開拓の百年を祖母、母、娘の三代に託して描く。（昭和編／１９９２年９月１９日・２６日放送、全２回）◆昭和２０年１２月、終戦直後。フキは樺太に残された息子・庄作と孫のあいの婚約者・直之を救い出そうと稚内から船を出した。翌朝、港に迎えに出たあいは直之の死を知る。あいは祖母以来代々の土地を捨て、闇市へ身を投じる。金しか信じられないというあいに、フキは大地とともに誠実に生きることを説くがあいの心には届かない。闇市でのし上がっていくあいに、エリート技術者の晴男が求婚する。

千数百年の歴史を誇る奈良の伝統工芸にスポットをあて、その技と心を訪ねる。伝統工芸の源は正倉院の御物にあるとされ、現代の奈良の職人はその技術を習得し乗り越えようという心意気に燃えている。精緻な寄木細工の木画の木工芸、舞楽の面打ち、塗師の作り出す奈良漆器、奈良の鹿角を材料とする工芸、麻を基本とする奈良晒と蚊帳など、この町を流れていった伝統の重みが、人気の少ない奈良の裏通りに今も息づいていることを証左する。旅人は渡辺文雄。◆第１１１２回　◆興福寺【国宝】木画銀線象嵌経筒納曽利面鳳凰文様硯箱奈良公園

アメリカ、イギリス、イタリア、ポルトガル、ドイツ、スペイン、日本の７か国の８放送局が、コロンブスの大航海５００周年を記念して共同制作した大型番組。（１９９２年５月４日～６月１６日放送、全６回）◆イタリア・ジェノバ生まれの一介の商人コロンブスが大西洋横断の航海に至るまでには長い道のりがあった。当時ヨーロッパ随一の海洋王国ポルトガルに資金援助を願いでたが受け入れられず、つぎにスペインへ行って航海による利益を説き、援助を取りつける。アメリカに到達して英雄となったコロンブス、しかしその生い立ちなどには謎の部分も多い。当時のヨーロッパ先進国の情勢を背景に、彼の複雑な人間像に迫る。

加賀前田家ゆかりの寺、石川県小松市の那谷寺と、羽咋市の妙成寺。この２つの寺には徳川政権の下におかれた重圧の歴史が眠っている。共に三代藩主前田利常（１５９３～１６５８）が建てた。利常は後水尾天皇と親交があり、加賀の地に王朝文化の再興を夢み、百万石の財力を投じた。江戸に人質として奪われた生母寿福院への思慕を壮麗な寺社や調度に託し、悲運を慰めた。利常は多くの一流芸術家を加賀に招き典雅に富んだ美術工芸を根付かせ、文化で対抗した。◆【重要文化財】那谷寺本堂、三重塔、書院、妙成寺二王門、本堂、祖師堂、三光堂、五重塔、山水蒔絵机〔妙成寺〕、山水蒔絵料紙筥、鶴下絵和歌巻（本阿弥光悦筆）〔京都国立博物館〕

世界の陸地の３５パーセントを占めている砂漠。しかも毎年５万平方キロも増え続け、砂漠の住民を苦しめている。鳥取大学名誉教授の遠山正瑛さん（８５歳）は大学を退官してからの第２の人生を、砂漠緑化にささげている。日本からのボランティアを募り、２か月に一度は中国に渡り、砂漠開発協力隊の陣頭指揮をとって活躍する遠山さんの姿を通して、私たち人間が地球にできることは何かを問う。

幕末から明治にかけて生きた天才的な左官職人、入江長八。通称、伊豆の長八。１２歳で左官棟りょうに弟子入りし、絵心があって江戸の狩野派に学ぶ。漆喰は寺社や城郭などに多用され、左官技術は発達した。長八は平面塗りに飽き足らず、鏝で巧みに盛り上げ色を加え、独創的な「鏝絵」を完成させた。新奇な絵画分野に挑戦した鏝絵も、長八一代で終わる。関東大震災で遺作のほとんどは焼失するが、わずかに残る漆喰の名品は立体感を表わし不朽の光を放つ。◆千羽鶴（入江長八作）〔岩科学校〕、飛天〔浄感寺〕、雲龍、天鈿女命功績図〔寄木神社〕、龍の丸額〔成田山新勝寺〕、臼に鶏、松崎町雲見千貫門（山本堪一作）

大晦日はお金の締めくくりの日でもある。お金の工面がつかなかった人たちは掛け取りに苦しい言い訳をして、何とか年を越そうとする。去年は死んだふりで家賃の支払いをだました男が、今年も同じ手を使うわけにはいかず、大家の趣味につけ込んで喜ばせ、支払いを延ばさせた。次に薪屋が来ると、相手の言葉尻を捉えて逆に居丈高な対応をし、借金を棒引きさせてしまう。あの手この手の掛け取り撃退法がほほえましい。