かつて東海道一の難所といわれた大井川。駿河湾に流れの注ぐ河口近くの大井川町藤守。昔から度重なる洪水で泣いてきた藤守の人々は、川除けの神の前に『田遊び』の芸能を奉納し平穏無事を祈願した。その伝統は今も絶えることなく、毎年３月１７日大井八幡宮に春の祭りを捧げる。流域にある茶畑に新芽が萌え出づるころ、大井川の流れとともに民俗芸能を守り続けてきた人たちは田を耕す。◆【重要無形民俗文化財】藤守の田遊び〔静岡県〕

日本三景の一つとしてたたえられてきた宮島の春を、様々な春の行事を通して紹介する。◆１月５日の朝、厳島神社正面の高舞台で舞楽「抜頭」が舞われる。これは奈良時代、大陸から渡ってきて宮廷の手厚い保護のもとに日本にだけ残った舞楽。「抜頭の舞」の紀元はインドである。猛獣に殺された父のかたきを討って山から帰ってくる息子の姿を舞に仕立てたもので、厳島神社の宮司・野坂家に代々伝えられてきたものである。

明治、大正、昭和を生き、数奇な運命に翻弄された男の死の謎を探るドキュメンタリー。年間数百万人の観光客が訪れるグラバー邸。しかし、この邸の主がたどった数奇の運命を知る人は少ない。１９４５年（昭２０）８月２６日、１人の老人が自殺した。明治維新の功労者として、巨万の富と地位を築いた英商人グラバーの一子、倉場富三郎だった。日本に帰化した彼に、戦時中は官憲の目が光っていた。

日本海に突き出た常神半島がその懐に５つの湖を抱く。三方五湖である。ここには湖を命とする人々の暮らしがある。水月湖には越冬する鳥、アビの姿。里では江戸時代からの道具でワラを編む「納屋仕事」の風習が残る。三方湖を見下ろす山腹には北陸３３カ所の札所がある。網を仕掛け水面を青竹でたたく「たたき網漁」の音が聞こえると、里の人は春の訪れが近いことを知る。やがて、湖の里からアビが旅立つ日が来る。◆【名勝】三方五湖〔福井県〕

役者から裏方まですべて村人によって演じられる、大鹿村に伝わる伝統歌舞伎を長期取材したドキュメンタリー。長野県の伊那谷は、かつて芸能の里といわれ、各村々で歌舞伎が演じられてきたが、今では下伊那郡大鹿村に残るだけとなっている。

京の夏祭「祇園祭」に鯉山と呼ばれている“山鉾”を出している鯉山町に古くから伝わるタペストリー。桃山時代にベルギーから海を越えてもたらされたこのタペストリーは、いつのころか細かく裁断されて、現在では鯉山を飾る見送り、胴掛として用いられている。裁断されたほかのタペストリーは、どこへ行ったのか。また、だれがこのタペストリーを日本に持ち込んだのか、謎を探って行く。

時代劇「必殺仕事人４」の撮影現場を背景に、京都映画撮影所の制作進行を長年務めてきた鈴木政喜さんを、月亭八方が密着取材する。◆鈴木さんは通称マーちゃん。時代劇を制作する撮影所で制作進行を４０年も務めてきた。鈴木さんは、そもそも大部屋俳優として映画の世界に入ってきた。芸名を淀神勝利といい、今でも端役で出演することがある。活動屋４０年の鈴木さんのユニークな生き方を哀歓を交えて描く、人物探訪のドキュメント。

航空力学の世界的権威となった今も、少年時代の夢そのままに、憧れのトンボの姿を求めて各地に旅するひとりの研究者のロマンに満ちたひと夏の姿を追う。◆東昭氏（東京大学工学部教授）の専門は航空力学である。その研究成果は航空機の開発などに応用され、世界的権威となっている。東教授は、子どもの頃からトンボの卓越した飛行能力に憧れを持ち、１９８４年の夏、その飛行メカニズムの解析に取り組んだ。日本でも有数のトンボの生息地である静岡県磐田市の桶ヶ谷沼の保護活動をする大庭俊司さんの協力を得て生きたギンヤンマを採集し、風洞実験で飛行を解析して論文をまとめた。一方、模型飛行機研究家の野中繁吉さんは、東教授にアドバイスを求めて、４枚羽根の模型飛行機の製作に挑戦する。再現するのは、３億年前の化石に残るトンボの祖先で史上最大の昆虫といわれる古代生物、メガニュラの飛行である。