国鉄三河島の大惨事の思い出も新たに初七日を迎えた事故現場では、遺族や地元の人々によってしめやかに法要が行われた。国鉄の東京鉄道管理局では厳しい世論にじっとしてもおられず、１７電車区で発電信号や発炎筒など特殊信号の扱い方の訓練を行った。あの時これさえたかれていれば、事故を最小限にくい止められたはず。自動列車制御装置など世界に誇る日本の鉄道技術。しかしこの優秀な技術も実際には資金難を理由にほとんど利用されていない。列車集中制御装置は全国で伊東線だけ、また信号機が見えなくても運転手に危険を知らせる車内警報装置は、重要幹線や一部の電車区だけといった具合。大部分を占めるローカル線は昔ながらの人と人が確認しあう昔ながらの保安設備、時代の先端を行く技術と昔ながらの方法が同居しているアンバランス国鉄、人命尊重こそ第一に守って欲しいものだ。

１９６２年９月２０日、東海道新幹線新丹那トンネルの貫通式が行なわれた。このトンネルは昭和３４年（１９５９）９月着工、来宮−函南間７９０５メートルを結ぶ我が国３番目の長いトンネル。富士火山帯特有の悪地質に悩まされながら１日２メートルという超スピードで堀り進み、最後の壁に発破がかけられた。３年間の苦労を吹き飛ばして新丹那トンネルが貫通した。東西から堀り進んだ工事関係者が感激の握手を交わす。着工以来ちょうど３年。新丹那トンネルは大きなヤマを越し、来年９月夢の超特急の開通を待つ。

白波をけたてて進む上陸用舟艇に乗って、陸上自衛隊第１１師団の無医村診療班が、北海道積丹半島川白地区に向かう。この辺りは道らしい道もなく交通は海にたよる陸の孤島、部隊は海上自衛隊の応援で目的地に到着。重い機材を陸上げして村の小学校に診療所を開いた。日頃医療に恵まれぬ村人で診療所は満員。婦人自衛官も活躍。手あつい治療を施す。また定期診断すら受けられぬへき地の子供たちの健康状態も調べられる。一方慰問を担当するのは音楽隊。村人の協力で開かれた浜辺のコンサートは、ふだん娯楽に乏しい村人に喜ばれた。こうして無料サービスの診断を終えた部隊は、村人からまた来て下さいと感謝の声に送られて、海路をつぎの目的地に向かって出発していった。

戦後最高の人出があった第３３回メーデー（１９６２年５月１日）、東京の神宮外苑広場は２３万人の労働者で埋まった。今年はきれいなメーデーと宣伝したもののデモ隊の出発した後はゴミの山。後始末に２００人の作業員が５時間もかかった、費用は５８万円。子供連れで賑わう動物園は迷子相談所が繁昌。東京駅ではこのところ陽気のせいか列車が着くたびに忘れものが発見され、一日平均３５０点が置き去りにされていることになる。待てどくらせど持ち主の現われない遺失物や、行く先不明の荷物はひとまとめにして南千住の東京用品庫に送られる。ここの作業場は迷える荷物でいっぱい。品物のバラエティーに富んでいる点はデパートなみ。大は布団類から種々様々のものでいっぱい、ここに集まった持ち主不明の荷物は２束３文で競売される日を待っている。

荒行で知られた身延山久遠寺では４３人の修行僧たちが山にこもって百日間の苦行を続けている。読経、木剣練習などの中で一番骨身にこたえるのは日に７回の水行。修行明けも近づいた２月３日の節分会には、各地から善男善女がどっと押しかけた。即身仏として磨きをかけた荒行僧達は信者が待ちかまえる本堂へ、お加持を受ければ思わず手を合わせたくなる有難さ。境内では豆ならぬ札びらが飛び、節分会は最高潮、この俗世の賑わいをよそに荒行僧たちは再び春立つおやまに帰っていった。

乱暴な運転手を監視しようという新兵器、タコグラフなるものが誕生。時計とスピードメーターを組み合わせたもので、車の運行はすべて自動的に記録するという機械が大量生産されている。ある運送会社が全車両にこれを取り付けたところ暴走事故は激減、ひき逃げの疑いをかけられた運転手のアリバイがグラフで証明されたりしてなかなか好評。いまでは追い越されても追い越さずに安全運転に一役買っている。

福島県郡山市のおまんじゅうやさんの若旦那、本名さんが４年前に始めた青い窓の詩の募集運動は、今では毎月２千人の子供達が詩を寄せているほどになった。入選作はウィンドウに飾る。良い子達のために作ったアンデルセン・ハウスは子供達のギャラリー。アンデルセン童話の精神を生かしてここは落書きの天国、町の子は思う存分自由画を楽しんでいる。盲学校の生徒がギャラリー出品のため粘土制作、閉ざされた才能が芽を出して素晴らしい作品を展示。中学生も自画像を木彫制作して町の子供達は創作の喜びを味わっている。アンデルセン・ハウスの試みは本国のデンマークにもつたわって両国文化交流の架け橋の役目をはたした。青い窓の子供達の夢は一行詩にたくされて、はてしなく青空に広がっている。

貿易自由化のあおりを受けて最近非鉄金属鉱山の不況が目立ってきた。政府が資金を出してくれれば、立派に採算が取れると道行く人に懸命のＰＲ。代表者達は田中角栄大蔵大臣に陳情、山をつぶさないでと訴えた。石炭不況の深刻さは誰でも知っているが、非金属鉱山の悩みは全く知られていない。すでに大手筋でも能率の悪い山は閉じて半分以上は安い外国産の鉱石に切り替える現状。宮城県の大土森鉱山は、朝鮮動乱以来我が世の春をうたった中小鉱山だが、自由化の波の前にひとたまりもなく閉山、２５８人全員解雇された。貿易自由化はヤマにも押し寄せ深刻な波紋を投げかけてきた。