毒ガス工場として戦時中はベールに閉ざされていた瀬戸内海の大久野島。戦後は廃虚と化し、人も寄りつかなかった。毒ガスに冒された元工員達、戦争の隠れた犠牲者として２百人もが今も不治の病に伏している。このほどこの島と、対岸の広島県忠海との間に送電線架線工事が始められた。両岸からくり出されたメッセンジャー・ワイヤーが船上で結ばれ、３３５７メートルの海峡いっぱいにケーブルがはり渡された。四国と中国の海上、３３キロを結ぶ大規模な２２万５千ボルトの送電線工事の中でもこの島と忠海に立つ鉄塔は、世界最高の２２６メートルを誇る。年内の送電開始を目指して急がれる工事の一方、、島を国民宿舎の村とする計画も進み、すでに一部では若い人達の元気な声が聞こえるようになった。こうしてかつて人も寄りつかなかった毒ガスの島は、時代の流れとともに大きく生まれ変わろうとしている。

日本の碁を研究したいとオーストリアのホルスト・ミューラー君が稼ぎ貯めた６百ドルを持ってやってきた。瀬越憲作名誉九段を訪問。東京に１年間滞在して勉強し、ヨーロッパのチャンピオンになると張り切っている。山口県岩国のアメリカ軍基地ではこの程相撲部屋が誕生した。現在青い目の関取は１１人だが、自衛隊の土俵を借りて稽古に励んでいる。テッポー・プッシングも堂に入ったもの、今では四十八手もマスター、すでに山口県の大会で個人優勝２回という猛者もいる。この分では柔道に続いて相撲もうかうかできない。青い目の剣豪はアメリカ軍人のジョセフ・カミンズさん。今日は野試合、居合い抜きは５段の腕前というカミンズさんは、免許皆伝の虎の巻を授かるのも間近ということ、日本の国技も外国人にだんだん株を取られてしまいそう。

このほど世界で初めてというプロ体操チームが誕生した。このチームは国体で活躍した高校選手や体操学校の卒業生ばかり。今日は熱海のホテルにお座敷がかかった。「体操うります」とこのチーム、目下あちらこちらのステージに引っ張りだこ。（週間話題）

総理府・徳安実蔵総務長官の発案で第１回交通問題公聴会が開催された。国民から生の声を聞き、交通マヒ対策の参考にしようというものである。トラック業者の京極さんは「なぜトラックだけが交通規制の対象になって、乗用車が放任されているのかという点に不合理があり、不満がある。」と規制の公平を申し立てれば、タクシー運転手の金谷さんは、都電の安全地帯の撤去を要求。トラック運転手の吉野さんも点滅式信号の普及を要望。オーナードライバーの立場から、小坂さんは交通取締りについて「違反者を罪人扱いする事は国民を敵にまわすことになる」と国民への信頼を強調した。

今まで奇術と思われていた催眠術が最近科学的な学問として見直されてきた。東京教育大学心理学教室では偏食の治療に用いる研究が行なわれている。子供達を催眠術にかけて楽しい花摘みや音楽の世界に誘い込み、緊張感をほぐしながら嫌いなものを暗示で少しづつ食べさせて、食べ物の好き嫌いを治す治療にかかる。このように偏食はだんだんに治されて行く。そのほか、ノイローゼやちょっとしたクセまでなおせる。又催眠術を用いて痛みを治すことも行なわれている。歯医者さんでは麻酔のかわりに催眠術をかけていやな治療も笑顔のうちに済ませる。この様に催眠術は医学界に広く応用され初め、新しい治療法として注目を集めてきた。

アメリカの３番目の人間衛星、シラー中佐を乗せたシグマ７（セブン）が１９６２年１０月３日ケープカナベラルから打ち上げられた。我が国では郵政省の電波研究所がシラー中佐の肉声を見事とらえた。日本の観測技術は今まで米・ソ両国が秘密にしてきた衛星船の周波数もキャッチ、その優秀さは世界に高く評価されている。電波研究所では更に高度の観測を目指して、茨城県鹿島灘に東洋一のパラボラアンテナの建設を急いでいる。こちらは日本のマーキュリー計画の基地として注目を浴びている防衛庁航空医学実験隊。パイロットの重力耐久テストを行う遠心力発生装置のカプセル内には、マイクやテレビカメラ、心電計など各種記録装置が積み込まれている。パイロットの適正検査や耐寒耐水服の実験も行われている。宇宙服を着て低圧タンクに入り、高空での気圧の変化に耐えるテストも。血液が沸騰する高さの危険に耐え、宇宙への手掛かりをつかむ日本の宇宙飛行士候補生である。

毎日新聞社主催の第５回現代日本美術展が１９６２年５月９日から上野の美術館で開かれた。大家招待作品と合わせて、今年は特に一般公募のコンクール作品が展示されて注目を浴びている。新人・ベテランあわせて５７０点がきそって現代美術の意欲を示している。（週間話題）

１９６２年９月２０日、東海道新幹線新丹那トンネルの貫通式が行なわれた。このトンネルは昭和３４年（１９５９）９月着工、来宮−函南間７９０５メートルを結ぶ我が国３番目の長いトンネル。富士火山帯特有の悪地質に悩まされながら１日２メートルという超スピードで堀り進み、最後の壁に発破がかけられた。３年間の苦労を吹き飛ばして新丹那トンネルが貫通した。東西から堀り進んだ工事関係者が感激の握手を交わす。着工以来ちょうど３年。新丹那トンネルは大きなヤマを越し、来年９月夢の超特急の開通を待つ。