飛騨の匠で知られる岐阜県高山市。寅年を前に、伊勢神宮が初詣の人へお守りとして渡す１万個の木彫りの虎が、香り高い楠木で見事に彫られて行く。一方焼物の町愛知県瀬戸市では、百万個を目標に大小様々な虎作りが真っ最中。動物園では来年はぼくの年と本物のトラ君が出番を待っている。

１２月１日は映画の日、今年は美術映画の伊藤喜朔氏や女優生活４０年の英百合子さんら６０人の功労者に表彰状が贈られた。

１月１５日は成人の日、話題の新大関大鵬もこの日を迎えた。全国でおよそ１８３万人の若人か新しい有権者となったが、大事な１票を大切に使って欲しいものである。東京では、働く若人の集い「根っ子の会」で５０人の店員さんたちが、仲間にお祝いされて元気に新生活のスタートをきった。岩手県の大船渡市では、嘉永４年（１８５１年）からこの土地に伝わる今年（１９６１年）で１１１回目の珍しい成人式が行なわれた。これは昔でいえば元服式。１６才になった男女が参列して、２０ヵ条の「嘉永の定」と呼ばれる掟に従うことを誓う。連判状に拇印を押して今年は１３人の若人が名を連ねた。固めの盃を頂いて、今日から晴れて大人の仲間入りをすることになった。

みぞれをついて始った大学受験シーズン。全国５百以上の大学で一番の憧れの的は東京の一流大学で、試験地獄は激しくなるばかり。一方、文教設備の悪い地方大学は嫌われている。例えば名古屋大学は、明治６年頃建てられた兵舎が今も学び舎になっており、馬小屋が職員寮なのだ。埼玉大学の藤岡由夫学長は「おんぼろ校舎で研究費も少なく、立派な研究室もない学校では、先生が一流大学にみんな引き抜かれてしまうから益々悪くなる」と語っている。校舎の傷みかたでは一流の新潟大学では、廊下に穴があいたり壁は落ちるというスラム地帯と化して、古い校舎の半分が通行禁止となった。一時は大雪のため授業中止も行なわれ、いつ崩れ落ちるかもしれない屋根の下では落ちついて勉強もできない危険状態だ。ついに取り壊し作業が始まったが、国から改築予算が出るのは３年先の事。大学は増えても地方大学の育成は、雪国の春のようにまだ遠い先のようだ。

１９６１年１２月１０日から、いよいよ本番となった歳末特別警戒、東京では空からヘリコプターで交通ラッシュ整理。大阪では私服の自転車隊が車の入れない路地まで入って犯罪防止に活躍している。銀行の窓口に設けられた特別派出所では、札束をかかえたお嬢さんのボディ・ガードを買って出るサービスぶり。釜ヶ崎もようやく明るさを取り戻した。再び、物騒な事件の起こらないよう厳重な警戒が続けられている。東京警視庁にこの程誕生した初動捜査班の黒いパトカーが深夜の街へ飛び出して行く。強盗のあとも生々しい現場で証拠物が集められ、犯人の足どり捜査が始まった。発生する事件を追って次の現場へ、師走の夜を守る人々の活動はつづく。

海抜１３００メートル、岩手県の山奥にある前森山の集団農場は７年前に中国から引き上げてきた人たちが共同経営で築き上げた農場である。不毛の地も緑の牧草地と変わり、トラクターも購入し、牛も８０頭に増えた。生活班が腕をふるう自家製のパンも焼き上がって、総勢百名の大世帯の食事が始まる。共同託児所も設けられた、この村の事業は全て合議制で行われ、新しいプランが実行に移されて行く。５０頭も収容できる牛舎の建設が事業班の手で始まった。７年がかりの村作りがやっと実を結んだ引き上げ者の楽園。

子供の日、目の見えない子供たちは鯉のぼりをあげ、得意のブラスバンド演奏を披露した。八王子の盲学校では、野球で誰にも負けない元気なプレーぶりを見せた。このほど東京に全国２０万人の視覚障害者のため、耳で聞く本を作ろうと音の図書館ができた。しかし全国の目の不自由な人々に対し、音声テープの数が足りない状態。テープを持って慰問に行った盲学校では、生徒たちが熱心に耳をかたむけていた。光を求める子供たちにもっと幸せを送ってあげたいものだ。

長野県松代の地震観測所では今日も地味な観測が行われている。粗末な設備のため観測員のなり手がなく欠員がふえる一方。ダムの耐震実験をする電力会社、建物の震動実験をする建築会社、それぞれ地震の被害を防ぐため研究がすすめられている。しかし我々のすむ都会はこうしたすぐれた研究が行われていながら地震に対して決して安全とはいえない。もし東京に大きな地震が起きたら１万７千戸は灰になると予想される。大正１２年の関東大震災では１万３千戸が全壊、２２万戸が灰になり、猛火の下６万人の生命が失われた。あれから３８年、当時にくらべ消火力は発達し防災訓練もたけなわだが、消防車も入れぬほどの狭い路地がいたる所入りくんで、都市消防は赤信号を告げているのが今日のマンモス東京の姿。