うんざりする暑さでビヤホールは超満員、おかげでビールが売れて品不足、お得意様に断るのに一苦労。電気冷蔵庫に押され気味の大阪の製氷業者が知恵を絞って考え出したのは氷の器。水晶のように美しい氷の器は真夏でも３時間は大丈夫、涼味百パーセントの新商売。丑の日を迎え、鰻の注文が殺到する浜名湖のうなぎ養殖場、全国の８割を占めるここでは、てんてこまいの忙しさ。この年は前年より２百トンも多い出荷が見込まれ、うなぎ上りの景気の良さ。しかし、背中をさかれて串に刺される哀れ蒲焼きの運命、うなぎにとってはとんだ危日だ。

昭和３６年度も６人の文化勲章受賞者と５人の文化功労者が決まった。文化勲章を受ける日本画の堂本印象さん、仏画にまた日本の抽象化に意欲的な活動を続けている。陶芸家の富本憲吉さんは独学で古九谷の味を現代化し気品高い作風で知られ、色絵の焼付には他にならぶ人なき優れた技術をもっている。功労者の異色は柔道の三船久蔵十段、世界の柔道へと６０年の精進が高く評価された。８２才の石原忍博士はトラコーマの研究や色盲検査表で世界的に有名な医者、現在も日課の検査表作りに余念がない。博士の新しい文字の研究は眼科医の経歴を生かした国語改良のライフワーク。現在の日本語では世界に遅れを取るばかりと意気盛んでこの道一筋に生涯の努力を傾け、今なお厳しい学問の道に励んでいる。

１９６１年８月７日、チトフ少佐が操縦するソビエト連邦のボストーク２号は２５時間１８分に渡って地球を１７周、月への往復距離に匹敵する７０万キロを飛んで地上に生還した。この間、チトフ少佐は８時間の睡眠と３回の食事など貴重な宇宙生活を体験、空から各国にメッセージを送った。

千葉県佐原から茨城県竜ケ崎へ、季節労働のおばさんたちがバスでやってきた。人手不足の折から日当も２．３割方はずんで迎えられ、忙しい田植季節の始まりだ。茶所・狭山では好景気を反映してか、茶摘みの娘のなり手がさっぱりなくなってしまい能率の上がるハサミ刈りをしたり、臨時休校の子供たちに応援を頼んで急場をしのいでいる。人手不足で頭の痛い大人に比べ、子供たちには働いたお金を積み立てて卒業記念にあてようと、楽しいアルバイト・シーズンになったよう。

豊年祭りの太鼓につれ５年に一度の山車が栃木市をねり歩く。３段くり出しの人形山車は高さ９メートル。電線をよけながら神様のお通り。七五三でにぎわう明治神宮には青い目の坊やのいなせな江戸前姿も見られる。気の早いデパートは冬の装いの趣向をこらして歳末大売り出し合戦の火ぶたを切った。冬を待ちきれず氷を砕いたゲレンデで初すべりをするスキー族、シーズンに先駆けて早くも冬の訪れ。

残雪に映える北アルプスの立山に１８３人の山岳家を集め、わが国最初の大規模な山岳訓練がくり広げられた。西の峰から聖火が運ばれて、キャンプファイヤーを囲む山男達の歌声が立山連峰にこだまする。剣沢の雪渓では厳しい制動訓練、別山の岩場ではロック・クライミングの高等技術など、新しいリーダーを育てるための激しい訓練が行われた。健全な登山と山の知識を深めるため、アルピニスト達は更に標高３００３ｍの剣岳にいどむ。前年この山で遭難した人の遺体が発見されて仲間によって収容されたが、こうした山の悲劇をなくして日本の山を健全なものにしたい。

中央公論社社長宅が襲われた嶋中事件から２０日目の１９６１年２月２１日、警視庁はかねてからテロの背後人物と目されていた愛国党総裁赤尾敏を殺人教唆の疑いで逮捕した。事件のけじめも一応ついて小倉謙警視総監は辞意を表明。新総監には原文兵衛氏が就任することになった。ところが２４日、赤尾敏の拘置請求を受けた東京地裁の飯守重任裁判官は嶋中事件の原因は皇室侮辱にあり、テロを招いた（左翼の）集団暴力の規制を考えるべきだとの意見を発表、裁判官として異例のこの一方的な発言は大きな波紋を投げかけた。

台風シーズンを迎えて１９６１年８月２４日東京の江東地区では総合防災訓練が行われた。ゼロメートル地帯の人たちは訓練とはいえ真剣。もしも伊勢湾台風級の高潮が東京を襲ったら、亀戸駅前はガードすれすれまで水没、浅草の仲見世はお店のひさしまで、銀座通りは交通整理のお巡りさんの首まで水が上がって、大東京の大半は泥の海となってしまう。今も尚、水面下の恐怖にさらされている江東地区デルタ地帯では台風の来ぬ間に補修工事が急がれている。工事は去年から始まって１０年計画だが、自然の猛威は工事の完成まで待ってくれない。台風シーズンを前に心細い大東京の無防備地帯。