１９６１年３月９日福岡県田川郡上清炭鉱で坑内火災が発生、死者７１人を出す戦後最悪の炭鉱事故となった。はっきりした原因はまだわかっていない。国会では社会党の岡田利春氏が政府の責任を追求した。事故の１週間前に保安検査をした監理課長補佐は、責任を感じて自殺。保安監理の大元締め通産省の試験所では、ロープを伝わって坑道内を巡回するロボット保安機や自動ガス警報機など、保安のオートメーション化の研究が急がれている。１９６０年９月２０日、川底の陥没で死者６７人を出した豊洲炭鉱では、細ぼそと復旧作業が行なわれているが、死体の収容もされないまま廃坑同然という有様。職場を失った鉱夫たちは少ない給料でやっと暮らしをたてている。犠牲者の遺体が淋しく運び出される炭住街。この人々が安心して働けるのはいつのことだろうか。

飛騨の匠で知られる岐阜県高山市。寅年を前に、伊勢神宮が初詣の人へお守りとして渡す１万個の木彫りの虎が、香り高い楠木で見事に彫られて行く。一方焼物の町愛知県瀬戸市では、百万個を目標に大小様々な虎作りが真っ最中。動物園では来年はぼくの年と本物のトラ君が出番を待っている。

台風シーズンを迎えて１９６１年８月２４日東京の江東地区では総合防災訓練が行われた。ゼロメートル地帯の人たちは訓練とはいえ真剣。もしも伊勢湾台風級の高潮が東京を襲ったら、亀戸駅前はガードすれすれまで水没、浅草の仲見世はお店のひさしまで、銀座通りは交通整理のお巡りさんの首まで水が上がって、大東京の大半は泥の海となってしまう。今も尚、水面下の恐怖にさらされている江東地区デルタ地帯では台風の来ぬ間に補修工事が急がれている。工事は去年から始まって１０年計画だが、自然の猛威は工事の完成まで待ってくれない。台風シーズンを前に心細い大東京の無防備地帯。

１月１５日は成人の日、話題の新大関大鵬もこの日を迎えた。全国でおよそ１８３万人の若人か新しい有権者となったが、大事な１票を大切に使って欲しいものである。東京では、働く若人の集い「根っ子の会」で５０人の店員さんたちが、仲間にお祝いされて元気に新生活のスタートをきった。岩手県の大船渡市では、嘉永４年（１８５１年）からこの土地に伝わる今年（１９６１年）で１１１回目の珍しい成人式が行なわれた。これは昔でいえば元服式。１６才になった男女が参列して、２０ヵ条の「嘉永の定」と呼ばれる掟に従うことを誓う。連判状に拇印を押して今年は１３人の若人が名を連ねた。固めの盃を頂いて、今日から晴れて大人の仲間入りをすることになった。

中学を卒業した１５歳から１７歳までの年少労働者は、全国で２２５万人もいる。こうした少年少女の生活作文入選者がこのほど表彰され、多くの共感を呼んだ。働く少年達には夜間高校が楽しい息抜きの場所、洋服屋の組合で作った洋裁学校には、住み込みの少女達が休日ごとに熱心に基礎技術を習いに集まって来る。働く青春の集い「根っこの会」では今日も新しい仲間を迎えて楽しいレクリエーションのひとときだ。都会の中で相談相手もなく働いている年少労働者に暖かい福祉の手をさしのべたいものだ。

自衛隊増強計画を前に、定員に足りない兵隊の穴をうめようと防衛庁の地下室では毎日のように採用試験が行われているが集まりはよくないようだ。これではいかぬと街頭に進出し写真展を開いたが人気はない。せめて頭数だけでも揃えようと失業者に目をつけたのが防衛庁、職業安定所に係官を派遣して衣食住付き７５００円のサラリーマン募集、しかし好景気を反映して若い人を口説くのに一苦労だ、話が決まれば各所で開かれた試験場へジープで案内。一方鳴物入りのＰＲは勇ましい行進歌の発表会、笛吹けど兵隊集まらず、質も量もまだまだ、第２次防衛計画への悩みは多いようだ。

１９６１年３月１６日、上清炭鉱災害に続いて八幡市香月町大辻炭鉱新大辻坑内で火災事故が発生、現場調査に入鉱した瓜生所長以下２６名が充満したガスに閉じ込められた。救出作業はガスのためはかどらず全員が絶望。椎名悦三郎通産大臣も現場に現われ、必死の消火活動が続けられるうちに１９日、河野課長、青木主任などの遺体を収容した。しかし、後の死体収容のめどはたたず、ヤマは悲しみに包まれている、ヤマの災害はいつまで続くのか。

アフリカで不慮の死を遂げたハマーショルド国連事務総長の国葬が、生まれ故郷スウェーデンのウプサラの寺院で行われた。花で埋まった祭壇の周りにはグスタフ国王始め多数の人が参列して、実行力に富み誠実な人柄で世界の平和につくした故人の冥福を祈った。