予算ぶんどりの陳情団が目白押しに詰めかける大蔵省。国会周辺も連日のようにタスキ姿の陳情団が行き来して、今が陳情のシーズンである。軍人恩給復活組の大会には、衆参両院議員が１３０人も顔を並べてご機嫌伺い。総理に直接談判するのは、全国からうるさ型を集めた知事さんのグループ。このクラスは圧力団体の横綱である。月給１万円足らずでは福祉国家の看板が泣くと、値上げの陳情にやって来た保母さんの団体。しかしこのクラスには、大臣は多忙につき係りの者が話を承る程度。強い奴ほどよくぶんどり弱い者は後回しだ。医療費値上げを要求して厚生省と対抗するのは日本医師会、厚生省ににらみを効かせて一歩も引かない。こう圧力をかけられては今年の予算は２兆円台に膨れ上がりそうだ。また国鉄運賃など公共料金の値上げの気配もあり、どうやら予算ぶんどりの圧力は国民生活の方に跳ね返って来そうである。

東京の朝はこのところめっきり冷え込み、サラリーマンの出勤時間が集中して各駅では大混乱である。ピークともなれば積み残される人が駅にあふれ、いまにも事故が起きそうな危険状態。ついに国鉄始まって以来の改札制限まで行なわれた。それでも続く混乱に始発電車の手配を各駅で行なうという非常手段をとってみたが、やはり残留組が続出だ。国鉄ではもう手の施しようもなく、勝手にお取り下さいと遅延証明書を乱発。これでは悩み多きサラリーマンの足はますます重くなるばかりだ。

プロ野球オープン戦の東京第一戦は、新しく宇野光雄監督を迎えて陣容を建て直した大毎オリオンズと昨年の覇者・大洋ホエールズの対戦で始まった。大洋が１回表に西田亨投手から桑田武選手のホームランで２点を先取すれば、大毎は新人・大崎隆雄投手を攻めて４回と６回に１点ずつ入れ同点にした。８回表に大洋が再び２点リードすれば、大毎はその裏に山内和弘選手のホームランで同点に追いつき、ついに延長戦へ。１０回裏、大毎は二死一塁から山内選手のサヨナラ三塁打で大洋を降した。

南紀州をめぐる国鉄初の団体観光列車がお目見得、１９６１年３月１日賑やかに東京駅をスタートした。レジャーを楽しむお客さんに特急なみの座席指定、その上お弁当付きと、行き届いたサービスぶりを見せている。早春の瀞八丁をかわきりに、名勝那智ノ滝、本州最南端の潮岬、静かな白浜温泉と南紀州を一巡りし、京都をまわって５泊６日、１万２９００円ナリの大名旅行を楽しんだ。

１９６１年７月１２日、生ワクチン１千万人分がソビエトから到着した。このボンボン・ワクチンは厳重な検査を経たのち全国に配分され、生後３ヶ月の幼児から小学校４年の学童までに投与されることになった。しかし一向に衰えを見せぬ小児マヒの恐怖に母親たちはもっとワクを拡げてほしいと陳情する。幸いにも早期治療が効いて恐ろしいマヒから救われた坊や、退院の日を迎えてお父さんはほっとしている。子を持つ全ての親が小児マヒの恐怖から解放される日が早くやってきてほしい。

新春の空高くそびえる溶鉱炉から勢いよく銑鉄が流れ出す。鋼をつくる平炉。新しい年の重工業界の担い手、日本鋼管川崎工場では今年も鉄をつくる人たちの張り切った姿が見られる。平炉でつくられた鋼は巨大な鉄の塊にされ、分塊工場でローラーにかけられ圧延鍛錬されて思いのままの形に変えられる。さらに最新式の熱間圧延機で薄く延ばされて自動的に剪断される。原料から製品まで一貫した作業が続き、新しい日本の産業を支える担い手として送り出される。また、製鉄所と直結した造船所では今日も大型船の建造が進んでいる。いよいよ待望の進水式。美しく飾られた新造船が鉄に生きる人たちの希望を乗せて、新年の大海原へ華やかに船出して行く。

宇宙飛行から生還したガガーリン少佐はモスクワ市民に熱狂的な歓迎をうけた。人間衛星第１号はソ連の手で打ち上げられてフルシチョフ首相はハナ高々、米国は先をこされてしまった。１９６１年４月１５日キューバでは内乱が起り、反カストロ政府軍がキューバに上陸したが３日にして壊滅。反政府の成功をひそかに期待していた米国に深刻な打撃を与えた。モスクワなど共産圏の各地ではカストロ政権支持のデモ隊が米国の出先機関におしかけ、日本でも防衛二法案改正反対デモにキューバ政府支持のプラカードをかかげた。こうした中でライシャワー新大使がハル夫人と共に来日、日米の架け橋としてケネディ外交の送った新大使に期待がかけられている。

１９６１年６月２０日、満枝夫人を伴ってワシントン入りした池田勇人首相は、ジョンソン副大統領、ラスク国務長官や、留学中の令嬢などの迎えを受けた。ホワイトハウスでの第一回池田・ケネディ会談では、国際情報について率直な意見がかわされたといわれている。第２回会談は、ポトマック川で大統領専用のヨット、ハニー・フィッツ号で４０分間行われた。この後、池田首相はプレスクラブでの記者会見で、核兵器問題について日本の立場を強く訴えた。予定された第３回目の会談は、ケネディ大統領の急病で中止された。日米相互協力の強化、中共（中華人民共和国）、沖縄問題など広範囲にわたる意見の交換を終えた池田首相は、大使館でのレセプションに珍しく和服姿で出席、愛想よい笑顔を見せていた。