１９５８年９月２４日、奈良で道徳講習会が開かれたが、激しい学生たちのデモを受けて、校長先生たちはカン詰めの自給生活である。しかし、講習と生活は別、染み付いた習性がボロを出し、４日位では直りそうもない。救援食糧もデモ隊に絶たれ、この騒ぎで１９人の学生の検束者を出した。学生たちは釈放を要求して、警察署に坐り込んで頑張る。一方、東京でも９月２５日、文部省前で学生たちが気勢をあげたが、はたしてこの学生たちの行動力を、強腰の文部省はどこまで押え切れるだろうか。

３月３日はひな祭り。１９５８年３月３日、東京の立正幼稚園では、可愛い内裏さまが浮かれている。京都の宝鏡寺では、王朝時代の古い風俗が一般に披露され、施設の子たちも招かれて楽しい一日を過ごした。

「世界一うるさい都」といわれる東京。交通機関による騒音は、都会に住む人たちの神経をいらだたせている。特にひどいのが自動車の警笛。騒音は我々の肉体にどんな影響があるか、ウサギで実験してみると、呼吸数は倍増し、血圧がぐんと高くなる。人体の場合も同じことがいえる。こうした音の暴力を追放するため、警視庁では１９５８年５月１０日から本格的に取締りを始めた。オートバイの排気音の取締まり。また、交通事故の発生は警笛に頼って運転する車が多いためとあって、みだりに警笛を鳴らす車には、白バイが出動、指導を行っているが、クセはなかなか直らないようだ。この都会が音の洪水から解放されるのは、果たしていつのことであろう。

校長先生の管理職手当法案は委員会で一度も審議を行なわず、１９５８年７月３日、議長職権で参議院本会議に持ちこまれた。何回となく繰り返される動議に、しまいには何の動議やら訳が分らなくなるほどだ。とうとう４日の明け方までかかって法案はやっと成立した。これについて評論家の犬養道子氏は「８億９０００万円もの予算があるなら、もっと他に教育費をまわして欲しいところが沢山ある」と批判している。九州の炭鉱地帯にある小学校は、地盤の陥没のため校舎が傾き、教室は危険で使いものにならない。教室の不足な東京のある学校でも、授業は講堂の板の間である。政府は、もっと子供の教育にプラスになる文教政策を考えて欲しいものである。

山口県岩国市に、わが国で初の総合的な石油化学工場が完成した。明日の産業の担い手として、石油化学工業の前途が注目されている折から、この工場の新しい技術の応用と、完全なオートメーションの設備は、新しい力となることであろう。（週間話題）

昭和５０年（１９７５年）の東京。高速道路とモノレールは益々発達してゆく。丹下健三氏は新しい時代にふさわしい建築の設計に情熱を傾けている。気象研究所で人工雨の実験が続けられる一方、宇宙時代の人工食料クロレラが大量生産されようとしている。難しい計算は人工頭脳が一手に引き受けてくれる。明日の設計図は、一歩一歩現実となってゆくのだ。

風薫る１９５８年５月。参加２０ヵ国、１７００余名のアジアの若人を集めて、第３回アジア競技大会が開かれた。６月には岸信介、佐藤栄作兄弟内閣が成立。長崎での中共（中華人民共和国）国旗引降し事件に端を発し、日中友好の絆は断ち切られてしまった。８月、中共軍の金門島砲撃は日増しに激しさを加え、アジアの平和に暗い影を投げかけた。中東ではアラブ連合共和国が誕生、フランス領アルジェリアでは居留民が暴動を引き起こし、ドゴール将軍の出馬となった。イラクに上がったクーデターの火の手は、アメリカ、イギリス両国の出兵となり、民族独立の嵐と、これをめぐる東西両陣営の対立は世界の注目を浴びた。８月半ば、誘導弾エリコン荷揚げはとんだ騒動となった。１９５８年はまた警察官の在り方がいろいろと話題を呼んだ年であった。暴力追放で大いに面目を保った反面、本州製紙汚水事件など暴行事件が目立った。勤務評定の実施にあくまで強気の文部省は、先生たちをストライキにまで追い詰め、子供たちも保護者たちも、この一年、この争いに巻き込まれてしまった。お巡りさんのものものしい護衛つきで開かれた肩透かし道徳講習会も、激しい反対を受けた。特に、奈良では会場に泊り込みの校長先生にデモ隊が押し寄せたり、糧道を絶ったり大変な講習会であった。こうした情勢の中で国会にまかり出た警官職務法（警察官職務執行法）は、盛り上がった世論の前に自滅の途を辿った。政府自民党は、議会史上例の無い抜打ち本会議を強行、軌道を踏み外した国会は開店休業の状態となった。そのトバッチリを受けて、台風２２号の犠牲となった水害地伊豆は、未だ復興の目安もつかない。１９５８年１１月２２日、岸信介、鈴木茂三郎両党首の会談でようやく国会正常化へ踏み出した。一方、ユニオンショップ制をめぐって長期化した北海道の王子製紙ストも、１４５日ぶりに解決し、師走の苫小牧の町に久しぶりに明るい笑顔が蘇った。そして秋晴れの１１月２７日、国民待望の皇太子さまの御婚約が発表された。テニスで結ばれたお二人だけに、ぴったり息の合った幸福な家庭を築かれることであろう。しかし、あまりにも問題の多かった１９５８年。今、明るい夢と、希望をかけて新しい年を迎えようとしている。

１９５８年１２月６日、東京麻布のテニスクラブに、皇太子さまが正田美智子さんとご婚約後初めてご一緒に姿をお見せになった。お二人は仲良くペアーを組んで、軽井沢以来３ヵ月ぶりのテニスに楽しいひと時を過ごされたが、和やかな小春日和に溶け込みそうな、睦まじいお二人であった。