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【そのほかのイベント】  春休み親子「出前授業@テレ朝」を開催しました

春休み中の3月31日、テレビ朝日スタッフによる親子向け出前授業を開催しました。番組づくりの現場で忙しく働いているテレビマンが「ニュースができるまで」についてお話をし、ミニ番組作りの体験も行いました。


 当日は、春の嵐という悪天候にも関わらず、小学4-中2年生の親子115名が参加してくれました。参加者が次々と到着するところを、テレビ朝日のマスコットキャラクター・ゴーちゃん。がお出迎え。仲良く記念撮影をしたり握手をしたり、愛嬌たっぷりのゴーちゃん。です。

 1時間目は、松井康真さんによる「ニュースができるまで」。松井さんはアナウンサーとして「ミュージックステーション」や「ニュースステーション」、野球中継など、様々なジャンルの番組を担当されてきました。現在は報道局の記者として、主に福島原発の取材をされています。元々理系で、原発には入社時からずっと興味を持って取材を続けていたという松井さん。アナウンサーから記者への転身は、その経験をフルに生かした大抜擢でした。

 記者の重要な仕事の1つにインタビューがありますが、ニュースで使われる映像はせいぜい数十秒。しかし実際はその前後でも、真実を視聴者に伝えるために記者は様々な努力や苦労をしています。

 昨年11月、福島第一原発の中を報道陣が初めて取材した際に得られた吉田所長(当時)のコメントは、本来は細野大臣へのインタビューの時間に話されたものでした。果敢に吉田所長への質問を試みる松井さん。さえぎって制止しようとする大臣・・・緊迫した雰囲気をおさえるように、ようやく吉田所長が口を開きます。ニュースで流れたのはこの所長の発言の部分だけでしたが、こうして一部始終を見ることで、テレビで目にする映像やコメントは、長い取材の中の一部分にすぎないことが良く分かりました。

 次に、警戒区域上空からのリポートが取り上げられました。今年2月、事故から11ヶ月たって初めて許可されたヘリコプター取材です。まず、コメント無しの映像だけが流れました。荒廃した風景ですが、それがどこで、映っているものが何なのかまでは分かりません。

 続いて、まったく同じ映像に松井さんの実況リポートが付けられたものを見ます。このリポートの時、ヘリコプターから地上を見下ろす松井さんの手元にあったのは地図のみ。ふだんのニュースなら用意されている原稿はありません。松井さんは、現場と地図を照らし合わせながら即興でリポートをしていきました。駅舎が津波で流されてしまった駅。宇宙服のような白い防護服に身を包んだ作業員。子供のいない学校と氷の張ったプール・・・見えたものを着実に言葉にしていくリポートが、映像の理解を深めていきます。

 それから松井さんが取り出したのは、福島第一原発一号機の模型。番組で使われていたものですが、なんとこれは美術スタッフではなく松井さん自ら作ったもの。子供のころからプラモデルや模型が好きで、今も趣味で作っているという松井さんは、原発の巨大さや事故の重大さを視聴者に分かってもらうためには、模型で表すのが一番良いと考えました。しかし、市販されている原発のプラモデルキットなどはもちろんありません。松井さんは設計図を元に縮尺を計算し、百円ショップやDIY店を回ってパーツになる部品を探し、休日に自宅でコツコツと作り上げたそうです。その精巧さと熱意には参加者もびっくり。同時に、模型の中に同じ縮尺で立っている人間や消防車との比較から、松井さんが意図した「原発の巨大さや事故の重大さ」が確実に伝わってきます。

 「好きなことを続けていれば、いつかきっと何かの役に立つ」と松井さん。番組は何十人もの様々な能力が集まって初めてできあがるものです。また、番組が扱うジャンルも多種多様。今回はたまたま趣味の模型作りがニュースに役立った形ですが、「それが模型でも音楽でもゲームでも構わない。好きなことは一生懸命続けてください」という言葉にはとても説得力があり、大人も子供も大きく頷いていました。

 2時間目は、バラエティ番組などでディレクターを経験してきた木山亨さんの「ニュース番組作りに挑戦」。参加者には、実際にニュースで使われた「動物園でチンパンジーの赤ちゃんが生まれた」という原稿が配られています。1ページあたり10行の原稿には、アナウンサー手書きの書き込みがいっぱい。「人や場所の名前などの固有名詞は、間違えないようにふりがなをふってあります。みんなも、自分の名前を間違えて伝えられたら悲しいよね?」一度に多くの人に情報を伝えるテレビだからこそ、厳重なチェックが必要なのです。このニュースが流された映像に合わせて、会場の参加者も一緒に原稿を読んでみますが、・・・速い!ふだん何気なく聞いているニュースですが、アナウンサーは限られた時間の中でもきちんと内容が伝えられる技術を持っているんです。

DSC_1251-p.JPG それからニュース番組体験に移ります。「アナウンサー」の他に、マイクから声を拾う「音声」、アナウンサーを写す「カメラマン」、残り時間を計る「タイムキーパー」、それをアナウンサーに伝える「フロアディレクター」、画面をスタジオとVTRに切り替える「スイッチャー」の6つの役を、希望者に体験してもらいました。画面に写るアナウンサー以外に、こんなにたくさんの人が関わっていたんですね。番組作りはチームワークがとても大切な仕事なのだということが良く分かりました。 

 質問タイムには、会場から多くの質問がありました。中には「松井さんの出身大学はどこですか?」などという記者顔負けの切れ込んだ質問も。「原発報道」という少し難しいテーマでしたが、「情報を伝える」という点では他と変わりありません。「ニュースが伝えるのは、原発賛成でも反対でもない。真実を積み重ねて提示するだけ」という松井さんの言葉は、参加者一人一人に刻み込まれたのではないでしょうか。親子で楽しく放送について学んだ、有意義な出前授業でした。


◆うらばなし◆
 2時間の授業が終わった後も、熱心な参加者が松井さんと模型を囲んで次々と質問をしていました。アナウンサー志望の子の「アナウンサーになるには?」という質問に丁寧に答えていた松井さん。地道な取材を重ねながらも、時に強い姿勢で対象と向き合う。その根底にある「視聴者に真実を伝え続ける」という謙虚な使命感が、何より印象的でした。

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